□プリオン病は,正常なプリオン蛋白(PrPC)が異常プリオン蛋白(PrPSc)に変換し,神経細胞障害を惹起することで,急速に個体の死に至る疾患である。
□原因となるプリオンの由来により,由来不明の特発性,遺伝子変異による遺伝性,由来が同定できる獲得(感染)性の3タイプに分かれる。
①sCJD:プリオン蛋白遺伝子(PRPN)のコドン129がメチオニン(M)かバリン(V)かという遺伝子多型によりMM,MV,VVにわかれる。蓄積したプリオン(異常プリオン蛋白)のウェスタンブロットのパタンの違いにより,さらに1型と2型に分類されるため,組み合わせで6型にわかれる。
②遺伝性プリオン病:遺伝性CJD(gCJD),Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS),致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia:FFI)が有名であるが,そのほか,オクタリピート挿入変異や神経原線維変化(NFT)を伴う病型がある。
③獲得性プリオン病:パプアニューギニアのクールー(Kuru),医原性プリオン病である硬膜移植後CJD(dura-mater graft-associated CJD:dCJD),牛海綿状脳症(狂牛病)のプリオンに汚染された食品からヒトに感染した変異型CJD(variant CJD: vCJD)がある。
□特発性プリオン病には孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)が相当するが,100万人に1人の年間発症率の稀少疾患である。
□わが国では厚生労働省の研究班によるサーベイランス事業により疾患の年ごとの動向が明らかになっている。毎年約200人以上の患者が発生し,100%致死性であることから,ほぼ同数が死亡している。患者数は80歳以上を除いて,女性のほうがやや多い1)。古典的sCJDの平均発症年齢は66.5歳である。
□vCJDはこれまで1例認められているのみである。
□基本的には急速進行性の認知症である。
□発症より週の単位で症状が進行し,ミオクローヌス,小脳症状(失調症状),錐体路・錐体外路症状,視覚異常,精神症状などが出現し,無動性無言状態に至る。
□ただし,比較的緩徐な経過をたどる亜型群(sCJD MM2,V180Iなど)もある。
□初発症状:うつ,視覚異常,ふらつきなどがあるが,不定愁訴も多い。
□全罹病期間:古典的sCJDは15.2±12.9カ月,GSS 62.5±33.3カ月2)。
□進行期の症状:急速進行性認知症,錐体路・錐体外路症状,小脳性運動失調,これらによる運動障害・歩行障害,ミオクローヌスが現れる。
□終末期には無動性無言状態に至る。嚥下障害から経管栄養などが行われるが,肺炎などで死に至る。
□WHO診断基準では進行性認知症に加えて,ミオクローヌス,視覚異常・小脳失調,錐体路・錐体外路障害,無動性無言の2つ以上があればpossible CJD,これに加えて,脳波で周期性同期性放電(periodic synchronous discharges:PSDもしくはperiodic sharp wave complexes:PSWC)が認められるか,髄液14-3-3の増加が認められ,全経過2年以内であればprobable CJD,病理学的・蛋白化学的に確認された場合はdefinite sCJDとなる。
□髄液14-3-3はCJDの85%で陽性であるが3),特に古典型sCJDでは93%で陽性を示す。髄液14-3-3の値は継時的に変化するため,偽陰性の可能性があることを考慮しなくてはならない4)。また,他疾患による脳の破壊性病変でも偽陽性となることがある。
□髄液総タウ蛋白質もまた感度,特異度が高い検査であるが,アルツハイマー病,血管性認知症ではリン酸化タウ蛋白が高値を示す。
□髄液RT-QUIC(real-time quaking-induced conversion)検査は,PrPCを基質として,in vitroでごく微量のPrPScを増幅することでPrPScの検出を行う方法である5)。
□脳波におけるPSD(PSWC)はsCJDに関して感度64%, 特異度91%であり,認められたときの意味は大きいが,なくてもsCJDを否定できるものではない6)。
□頭部MRIの拡散強調画像(DWI)において,早期から皮質,線条体等に高信号が示される。DWI高信号は脳波より早期に出現し,特異度・感度は高いとされる。ただし,脳梗塞,低酸素性虚血性脳症,痙攣重積,辺縁系脳炎,中枢神経感染症,一酸化炭素中毒,低血糖脳症そのほかの疾患でも出現するので,継時的変化を検討することが肝要である。
□遺伝子検査:PRPNのコドン129および219番の多型を調べるとともに,gCJDおよびGSSもしくはFFIの診断に必要である。
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