□急性発症の末梢性顔面神経麻痺の原因は多岐にわたるので,それぞれの症例で鑑別が必要である。その中で,原因が特定できない特発性顔面神経麻痺はベル麻痺と称され,最も頻度が高く,年間発症率は人口10万人当たり20~30人程度と報告されている。
□ベル麻痺の多くでは,1型単純ヘルペスウイルスの再活性化が発症に関与するとされており,治療の際の抗ウイルス薬の有用性が検討されている。
□病態生理としては,ウイルスの神経への感染により側頭骨の顔面神経管内を走行する顔面神経に生じた浮腫のために圧迫性神経障害と血流障害が生ずるためとされており,浮腫軽減のための副腎皮質ステロイド投与の有効性が示されている。
□急性に発症し,日の単位で一側顔面の麻痺が進行する。
□診察上,患側の額のしわ寄せ不能,眉毛の下垂,閉眼不能ないし不十分な閉眼,鼻唇溝の菲薄化,口角の下垂,口すぼめ不能などの所見がみられる。
□顔面神経管内では遠位側より鼓索神経(舌前2/3の味覚と唾液分泌),あぶみ骨神経(聴覚調節),大錐体神経(涙の分泌)が分枝しており,障害の高位によって味覚障害,唾液分泌の低下,聴覚過敏,涙分泌低下といった症状を伴うことがある。
□前頭筋の収縮による額のしわ寄せが両側とも可能にもかかわらず,一側の顔面下半の筋力低下がみられる場合には,脳幹の顔面神経核より中枢の病変による皮質延髄路の障害を考える。
□ベル麻痺の診断は,通常,特徴的な経過と症状から臨床的になされることが多いが,中枢性の病因の否定のためにも脳CTの撮影が望ましい。また,可能であれば脳幹部のMRIを撮影するが,検査を待って治療開始が遅れることは避ける必要がある。
□顔面神経伝導速度検査は麻痺の予後予測に有用である。顔面神経を耳下腺近傍で刺激し,眼輪筋や鼻翼においた表面電極からの複合筋活動電位を記録する。検査は患側と健側で行い左右差を比較。健側に比して患側の電位が10%以下の場合は麻痺回復の予後は不良とする報告がある。
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