□異所性骨化とは,本来骨組織が存在しない部位,すなわち筋,筋膜,靱帯,関節包などに異常に骨形成が起こる現象であり,骨梁構造を認める点が石灰化との違いである。好発部位は骨盤,股関節,膝関節,肩関節,肘関節などである。
□発生病態としては打撲,脱臼,骨折などの外傷,暴力的な可動域訓練や粗暴な手術操作などの(準)医療行為により発症することが多い。また長期間の臥床・外固定,人工呼吸器使用,脳・脊髄損傷,熱傷,透析,人工関節手術などが発症の契機となることもある。
□痙性肢,強直性脊椎炎やびまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)の既往なども危険因子とされるが,本症の発生機序の全容はいまだ明らかではない。
□初期には局所の軽度の疼痛,腫脹,熱感のみであり,臨床症状からの早期診断は難しい。進行に伴ってしだいに関節可動域の制限が出現するようになる。
□慢性期になると局所の疼痛などの症状は消褪し,関節強直を含めた可動域制限が残る。
□血液学的には,初期に骨形成を反映する血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値やCRPの上昇を認めるが,軽度のことも多い。このため予後判定や治療方針の決定には,X線検査などの画像所見がより重要となる。
□X線上,初期には異常陰影は認めないか,3~4週後に局所に淡い石灰化様陰影のみが確認される。1カ月~数カ月の経過とともに,線状もしくは雲状などの不定型な骨陰影が出現する。
□technetium-99骨シンチグラフィーでも異常集積を認める。骨化部分の切除手術の術前評価にはCT(三次元再構成画像などを含む)やMRIが利用されるが,特に後者は骨化部分と神経などの重要組織との位置関係把握にも有用である。
□近年では早期診断としての超音波エコー,single emission CTや,単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT)などの有効性も報告されている。
□蜂巣炎や膿瘍などの炎症性病変,静脈炎,深部静脈血栓症や血管腫などの血管性病変,滑膜性骨軟骨腫症,傍骨性および骨外骨肉腫,骨外軟骨肉腫,滑膜肉腫などの腫瘍性病変,bizarre parosteal osteochondromatous proliferation(Nora lesion)などの腫瘍類似病変,カルシウム代謝異常症,術後感染などが鑑別疾患として挙げられる。
□また,進行性骨化症線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressiva:FOP)も鑑別を要する疾患である。小児期から全身の骨格筋,腱や靱帯などに進行性の骨化が生じる骨系統疾患で,軽微な外傷や医療的介入による組織内の炎症に続いて骨化が進行していく。常染色体優性遺伝とされ,2006年にはBMP typeⅠの受容体であるACVRI(別名ALK2)の遺伝子異変(R206H変異)が報告されている1)。
□現時点で確立された治療方法はないが,早期診断により生検や外科治療による医原性の異所性骨化を回避することが重要である。進行性骨化性線維異形成症(FOP)に関する調査研究班のホームページ(http://fop.umin.jp/)にも情報が掲載されている。
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