□脳症(encephalopathy)の発症に関与する薬物は多数あり,その病態も様々である。アスピリンはライ症候群の発症に関与し,ジクロフェナクやメフェナム酸はインフルエンザ脳症を増悪させる。テオフィリン関連のけいれん重積型脳症もよく知られている。
□抗癌剤や免疫抑制薬などにより,後部可逆性脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)と呼ばれる血管性浮腫を主体とする急性白質脳症を発症することがある。また,メトトレキサート(MTX)や5-フルオロウラシル(5-FU)とその誘導体であるカルモフールやテガフールは大脳白質の髄鞘を障害し,遅発性あるいは亜急性に中毒性白質脳症をきたすことがある。
□薬物が関与する脳症は症例報告でなされる場合が多く,正確な発生頻度は不明である。ただ,小児に解熱剤としてアスピリンを使用しなくなってからライ症候群の発生率は明らかに減少した。
□一方,小児急性リンパ性白血病患者でMTX投与後前方視的にMRIを行い,約20%に無症候性の白質病変を認め,約4%が亜急性白質脳症をきたしたという研究がある。小児の診療において免疫抑制薬や生物学的製剤を使用する機会も増えている。
□これらをふまえ,ここではPRESおよび中毒性白質脳症といった薬物関連の白質脳症について述べる。
□PRES:小児も成人と同様に,突然のけいれん,頭痛,意識障害,視覚異常などで発症する。けいれんの頻度は高く,反復性の発作や重積発作に進展することがある。
□中毒性白質脳症:成人では,初発症状としてふらつき歩行が最も多く,物忘れ,構音障害,動作緩慢,異常行動などの神経症状を認める。一方,MTXによる小児の亜急性中毒性白質脳症では,けいれんや片麻痺,失語などの脳卒中様症状が多かったと報告されている。
□頭部画像診断,特にMRIおよびMRAが有用である。
□PRESの典型例では,後頭葉,頭頂葉の白質を中心にT1強調画像で等~軽度低信号,T2強調画像では軽度高信号,FLAIR像ではより明白な高信号,DWIでは等~低信号,ADCでは高信号となり,血管性浮腫が示唆される。
□中毒性白質脳症ではT2およびDWIで高信号,ADCでは低信号となり,細胞障害性浮腫が示唆される。
□PRESのMRAでは,可逆性血管収縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome:RCVS)に相当する狭窄や拡張を伴う可逆性脳血管病変を認める。
□脳波では,後頭部や頭頂部などに連続する徐波やけいれんと関連して棘波,鋭波が認められる。
□髄液検査や血液検査は,基礎疾患に起因する変化以外には大きな異常は認められない。
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