著: | 宮田 靖志(愛知医科大学医学部 地域総合診療医学寄附講座 教授/医学教育センター 副センター長) |
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著: | 中川紘明(愛知医科大学病院 総合診療科・プライマリケアセンター) |
判型: | B5判 |
頁数: | 196頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2020年04月10日 |
ISBN: | 978-4-7849-5786-6 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
◆「つねに完璧」な診断は残念ながらありません。人はどうしても失敗をします。……ですが、その「失敗」を振り返り整理することができれば、次回はそれを回避することができます!
◆本書ではまず診断エラーの知見を整理して紹介いたします(総論)。「診断エラーに関わるどのようなバイアス(CDR)があり、どのような状況で生じてしまうのか」「それにどう対策するのか」をまとめております。そしてその知見をもとに、診断エラー症例を分析し、「次からどう回避すればよいか」を解説しております(症例)。研修医と指導医のやり取りを通じて具体的な症例をベースとすることでより理解しやすくなります。
◆ぜひ本書を転ばぬ先の杖として、日々の診療にお役立てください!
【総論】
1 今,なぜ診断エラー?
2 診断エラーとは?
3 診断エラーの要因は?
4 診断エラーはどのくらい生じているのか?
5 プライマリ・ケア領域での診断エラーとは? 〜原因とその頻度〜
6 診断エラーが生じやすいプライマリ・ケア診療の特徴は?
7 医療の不確実性と診断困難・診断エラーについて考える(その1)〜Not Yet Diagnosed(まだ診断されていない)の有用性〜
8 医療の不確実性と診断困難・診断エラーについて考える(その2)〜不確実性にどう対処するか〜
9 診断するための推論法は?
10 私たちはどのようにして診断推論を進めているのか?〜デュアル・プロセス・セオリー〜
11 診断エラーにおける認知的・心理的要因とは?〜様々なバイアスについて理解を深めよう〜
12 認知的要因による診断エラーが生じやすい状況は?
13 システム関連の診断エラーの要因は?
14 検査関連の診断エラーとは?
15 診断はチームスポーツだ!
16 患者・家族を診断プロセスに巻き込みましょう!〜患者・家族にしてもらうこと〜
17 診断エラーを回避するためにチェックリストを活用しましょう!
18「診断エラーを防ぐ12の秘訣」を実践しましょう!
19「認知的エラーを減ずるための10の心得と工夫」を実践しましょう!
20 積極的にGoogle先生に頼りましょう!
【症例】
1 発熱・耳痛で外来受診した48歳男性
2 四肢の関節痛・むくみで外来受診した30歳女性
3 胸焼けで外来受診した60歳男性
4 嘔気・胸痛・呼吸苦で救急搬送された24歳女性
5 発熱・膿性鼻汁で外来受診した36歳女性
6 発熱・後頸部痛で救急外来を受診した70歳女性
7 長引く咳嗽で外来受診した32歳女性
8 右下腹部痛で紹介受診した78歳女性
9 右季肋部痛で救急外来を受診した45歳女性
10 発熱・腰背部痛・腹痛で救急外来を受診した28歳女性
11 発熱・咽頭痛で外来受診した18歳男性
12 左下腹部痛で救急外来を受診した14歳男児
13 発熱・皮疹で救急外来を受診した82歳女性
14 胸痛で救急外来を受診した32歳男性
15 両手指・両下肢の浮腫で外来受診した44歳女性
16 転倒後の左側胸部痛で外来受診した88歳男性
17 右上腹部痛で外来受診した38歳女性
18 嚥下時の首の痛みで紹介受診した32歳女性
19 食後の心窩部痛で救急外来を受診した30歳女性
20 初経遅延で外来受診した14歳女児
常に正確な診断で患者さんを治療したいと思って,約30年間プライマリ・ケア診療に従事してきました。しかし,思い出されるのは数々の失敗ばかりです。迷惑をかけてしまった様々な患者さんの顔が頭に思い浮かびます。うまくいったことよりも,うまくいかなかったことのほうが印象に残りやすいのは,皆同じではないでしょうか。
あのときなぜ,あのように考えたのだろうか,なぜ,あのような診断を下したのだろうか。あとで振り返ってみると,いくつかの失敗はその原因を自分で整理することができますが,そうでないケースも多々あります。自分が考えたことを考える(メタ認知)ことがうまく働けばよいのですが,なかなかそう簡単ではありません。自分の失敗を認めたくないという心理が,一部影響しているのかもしれません。
近年,様々な認知心理学的知見が集積され,人はどのように考え,どのように判断するのかということがわかってきています。また,臨床現場での診断エラーに関するデータが次々と発表されてきています。残念ながら,人は常に合理的な判断を下すわけではないようです。また,薄々わかっていたことではありますが,様々な臨床場面で多くの診断エラーが生じていることが明らかとなっています。失敗を回避するために,これらの知見をしっかりと理解して臨床にのぞむことは,医療者としての責務と言えるでしょう。
本書では,診断エラーに関する様々な知見を整理してまとめ,その知見をもとに,実際の臨床現場での診断エラー症例を分析して,診断エラー回避の方法をわかりやすく解説しました。症例提示では研修医と指導医間のやり取りの場面を取り上げています。読者の皆さんは必ずしも同様の診療状況ではないかもしれませんが,この両者のやり取りが自分自身の頭の中で起きていると想定して頂ければ,本書が少しはお役に立てるのではないかと思います。どのような形で診断エラーの解説をすれば多くの臨床家に役立つのか,正直なところまだまだ試行錯誤です。本書をきっかけに,さらに洗練された診断エラーの議論・解説がなされることを願っています。
なお,本書で取り上げた症例は,様々な施設の医療者から提供されたものを指導医と研修医のやり取りとして構成し直し,一部脚色していることをお断りしておきます。ご協力頂いた方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
2020年3月 宮田靖志