監修: | 湯村和子(自治医科大学腎臓内科教授) |
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編: | 山中宣昭ほか(日本医科大学名誉教授) |
判型: | AB判 |
頁数: | 228頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2010年03月10日 |
ISBN: | 978-4-7849-5184-0 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
腎臓専門医が腎生検をし、腎病理標本が作製され、それをどう読み解き、臨床現場に活用していくか。それぞれの現場で何がポイントなのかを450枚等の写真を用いて提示しました。
腎組織標本作製に関わる技師の方にも,良い標本をつくるコツや過程を多くの写真・図表とともにわかりやすく述べています。
臨床や病理の経験をふまえた執筆陣により,腎疾患別にポイントを明確にし,鮮明な画像を用い,経過による変化もわかりやすく示しました。
第1章 腎生検の適応となる腎疾患
第2章 腎生検組織標本作製手順と所見の基本的読み方
Ⅰ 光顕標本の作り方
Ⅱ 腎生検の光顕所見の読み方のポイント
Ⅲ 腎生検に頻用される免疫組織化学(蛍光抗体法・酵素抗体法)
Ⅳ 蛍光抗体法と酵素抗体法の使いわけと所見の読み方
Ⅴ 電顕情報を得るための試料作製法
? 電顕レベルでの糸球体の構成要素と疾患との関連
第3章 腎生検で診断できる腎疾患
Ⅰ 光顕所見が診断の決め手になる腎疾患
1. 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)
2. 疾患としての巣状糸球体硬化症(FSGS)
3. 急性糸球体腎炎(AGN)とハンプ
4. 急速進行性腎炎(RPGN)と半月体形成
5. 間質性腎炎(IgG 4 関連間質性腎炎)
Ⅱ 光顕・蛍光抗体法さらに電顕にて診断する腎疾患
1. IgA腎症
2. 膜性腎症
3. ループス腎炎 ─ 多彩な組織型
Ⅲ 電顕所見が最終的な病理診断に有用な腎疾患
1. 基底膜菲薄病
2. アルポート症候群
3. ミトコンドリア脳筋症
4. ファブリー病
5. 糸球体沈着症
5-1. 膠原線維糸球体沈着症
5-2. Immunotactoid腎症(ITG)とFibrillary腎症(FGN)
5-3. アミロイド腎症★
Ⅳ 腎血栓および血管病変
1. 糖尿病性腎症
2. 腎移植生検病理像の話題の病変
第4章
機器の進歩と活用
文 献
索 引
毎年、腎生検は約1万件ほど実施されている。腎生検の病理所見はすぐさま臨床の現場にフィードバックされ、直ちに治療方針を決めなければいけないことがほとんどである。腎病理診断は、病理医が読んで病理組織所見報告となるが、病理検査室がある病院でも、病理医が腎臓病理を専門あるいは得意にしているとは限らない。臨床医は、種々のレベルの病理組織所見報告をもとに理解し、判断し、治療方針を決めなければならない。この病理報告書だけで、標本をみないで治療を決めることは少ないと思うが、臨床医は臨床医の視点をもって腎病理組織像を理解し判断することが、腎疾患診療にあたっては最も重要なことと考える。病理医と臨床医、標本作製に関わる技師、このような人々の相互の意見交換、理解がなされることで、真の医療に結びつくと考える。
腎組織標本作製に関わる技師の方にも、良い標本をつくる努力をお願いしたい。良い標本であれば組織診断も容易なのに、悪い標本では情報を得ることが難しい。臨床医もどのようにしたら良い標本をつくってもらえるのか悩むこともあるであろう。本書では、技師の方々に、「腎生検組織標本の作製手順(第2章)」を提示し、このような手順で標本をつくったら良い標本ができるということがわかる仕組みになっている。臨床医は、本書を技師のところへ持って行って、こんな標本で組織を読みたいと説明すればいいのである(十分良い標本をつくっている技師の方がいらしたら、是非とも秘密にしないで、そのコツを教えていただきたい)。
臨床医は本書で、腎生検所見を判断できるようになることが診療の深みを増すことに通じる。
病理医もわずかな腎組織で判断することは容易でなく(時には、このようなつらい経験もするであろう)、的確な臨床情報を得て、理解することが必要である。腎生検を実施するのが直接受け持ち医でない場合もあり、腎生検術者に明確にどのような腎組織を採取してほしいかを伝えることも必要である。
私自身苦労しながら腎臓病理を学んできたが、今の高度な医療の中では多忙な臨床に追われ、学ぶことに時間をかける暇がないと感じている。要領よく腎臓病理を学ばないことには、経験が少ない腎臓病医はそのまま患者に対応することになり、適切な治療が提供できないのではと、心配である。そのような方々のためにも本書をご利用いただきたい。本書は、腎臓病理医の方々が詳細に病理所見を記載した書籍とは異なり、技師・病理医・臨床医が一緒になってつくった、腎生検組織標本の作製手順(第2章)と腎生検で診断できる腎疾患(第3章)から成り立っている。
1人しか腎専門医のいない施設でも多数いる施設でも、同じように腎組織所見が十分に判断できる日を私は夢みている。私1人の夢ではないと思う。『1人で見る夢は、夢で終わるが、みんなでみる夢は、現実となる』(オノヨーコ)。臨床医も病理医も技師も協力して腎生検組織標本から情報を得る努力をすべきである。
腎生検組織標本の作製手順はかつて一緒に仕事をしていた東京女子医科大学・腎臓病総合医療センター・病理検査室の技師の方々に執筆を依頼した。多忙な日常業務の合間に、原稿を書いていただき心より感謝したい。
東京腎臓研究所の山中宣昭先生には超多忙の中、若い方々のためにと無理をお願いして、顕微鏡の進歩についての解説執筆と、私共の病理学的記載にミスはないかをご教示いただいた。
本書を企画したのは私が自治医科大学に移る前であった。ここに至るまで5年間かかった。その間、CKD(慢性腎臓病)がクローズアップされ、思いもかけず広く腎疾患が注目されるようになってきた。何度もリフォームしながら、ここまでたどりついた。
最後に、長くお世話になった東京女子医科大学第4内科の皆様にも感謝申し上げる。