2013年5月,米国精神医学会は「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」を公表した。これは,DSM-Ⅲ(1980),DSM-Ⅲ-R(1987),DSM-Ⅳ(1994),DSM-Ⅳ-TR(2000)と続いてきた改訂作業のひとつであり,DSM-Ⅳ(表1)から19年ぶりの大きな改訂となった。
DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)とは一言で言うと操作的診断基準である。振り返ってみると,わが国でもDSM-Ⅲが導入された1980年代から操作的診断の功罪について激しい議論があった。DSM-Ⅲ導入以前のドイツ精神医学に基づく診断体系は,患者の異常な行動から診断者が重要と思う要素を抽出し,その特徴を診断体系に照らし合わせて最適と思われる病名を選び出すという作業であり,診断者の経験と判断により診断名が一致しないという欠点があった。これに対してDSMは,患者の精神内界の病理過程に関する推論を排除し,外から観察可能な複数の行動異常を組み合わせて,一致する項目数ができるだけ多くなる病名を選ぶという操作的作業である。そのため,DSMは精神疾患の病因や病態に関する精神病理学的な思索なしに,外から観察できる行動異常と疫学的な事実のみに基づいて診断しようとするとの批判もあった。
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