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自転車自損死亡事故の実態把握における法医剖検情報の有用性 [学術論文]

No.4750 (2015年05月09日発行) P.38

三浦雅布 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野)

山﨑雪恵 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野)

井澗美希 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野)

吉留 敬 (川崎医科大学衛生学講師/岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野)

山本雄二 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野講師)

宮石 智 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科法医学分野教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-20

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  • 自転車死亡事故例を自損死亡に限って検討した報告はほとんどなく,筆者らは自転車自損死亡事故事案の剖検例に着目した。2007~11年に,当教室で自転車自損死亡事故により解剖となった17例を調査した。直接死因は転落に伴う頸椎損傷が最多で,ついで溺死が多かった。アルコール陽性例は64.7%であり,事故現場は用水・側溝などへの転落がほとんどであったことから,飲酒運転禁止の徹底,転落防止柵の設置,側溝の蓋の整備などが必要であると思われた。一方,岡山県の交通年鑑による同期間の自転車自損死亡事故数は12例で,解剖数との間に乖離があり,正確な実態把握のためには法医剖検例からの情報が必須であると考えられた。

    1. 社会から着目されていない自転車自損死亡事故

    近年,わが国において増加する自転車利用者に対応すべく,交通ルールや安全対策についての啓蒙活動が広く行われるようになってきており,警察庁の交通事故統計では,自転車死亡事故数は減少傾向にあるとされている1)
    世界的にも自転車利用がより一般化されている中,自転車事故を包括的に検討した研究があるが,その多くは外傷に着目したものであり,中でも死亡事故においては頭頸部の損傷が,死因として最も重要であるとされている2)3)。自転車事故による致死的な頭部外傷を予防するため,ヘルメット着用の有用性を統計的に検討した報告も多数ある4)~7)
    また,自転車死亡事故の多くは自動車との衝突により起こると言われているが4),その一方で,自損事故による死亡も一定数存在する。自動車などとの衝突の際には,重篤な損傷が頭部のほかにも胸部・腹部・四肢に起こりうるが,自損事故の場合には,複数箇所に重篤な損傷がみられることは稀だと言われており8),それゆえ,自転車事故全体からみると自損事故による死亡はその割合が少ないと考えられる。これを反映するように,自転車自損事故に限って注目した報告はほとんどないのが現状であり,過去の研究においても自転車死亡事故全体の一部として紹介されているにすぎない5)9)。しかしながら筆者らは,日常の法医剖検例を通じて,自転車自損死亡事故の事例は決して稀なものではないと感じており,今後高齢化がますます進行するわが国において,身近な移動手段である自転車の自損死亡事故例の情報を整理することは予防的観点から重要であると思われた。法医学分野において剖検から得られた情報を用いて,公衆衛生学的見地から社会に寄与することが法医学の重要な責務の1つであると考えた。
    今回筆者らは自転車自損事故で死亡した法医剖検例に着目し,死因に加え,事故の状況などを調査し,警察機関でまとめられている交通事故統計と比較した上で,自転車自損死亡事故の実態について検討したので報告する。

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