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利尻にクマは出なかった(上)[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(210)]

No.4917 (2018年07月21日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-07-18

最終更新日: 2018-07-17

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札幌で病理学会があった。梅雨がない初夏の北海道は観光のベストシーズンだ。せっかくなので、どこかへ寄って帰りたい。ちょっと、というか、だいぶ遠いけど、百名山のひとつ、利尻山の登頂を計画した。

病理学会では、もちろんしっかりお勉強。がんゲノムやコンパニオン診断のセッションがたくさん組まれていて、どこもかなりの人気だった。時代である。

がんゲノムは本当に驚くべきスピードで解析が進んでいる。従来の病理組織学的な診断と、遺伝子異常からの診断や分類とをどう組み合わせるかが重要な課題である。

悪性腫瘍の分子標的薬は、副作用が少ないけれども、効果のある患者さんが限定される。そこを見極めるための検査がコンパニオン診断である。それには抗体による染色と、やはりここでも遺伝子検査が重要な柱になっている。

19世紀後半、偉大な病理学者ウィルヒョウによって、病気は細胞から生じる、という細胞病理学が確立された。150年近くたった今、がんの領域では、細胞病理学から遺伝子病理学への大転換期である。

病理学におけるAIの話も面白かった。ゲノム解析とAIの進歩を受けて、病理医の役割はどうなっていくのだろう。ほんの数年前まで、AIの囲碁や将棋がここまで強くなるとは誰も予想していなかった。病理学だけでなく、これからの医学の進歩におけるAIの役割も予測が極めて困難だ。

などと立派なことを考えながら学会場を後にして、飛行機で利尻島までひとっ飛び。稚内まで陸路で行ってフェリーで渡る、というのが正しい旅程とは思ったのだが、さすがに時間がかかりすぎるので断念した。

天気予報は曇りだったが、利尻島に近づくにつれて雲は晴れ、雄大な山が見えてきた。利尻島は、島全体が山みたいなもので、均整のとれたその山容は実に美しい。

これまでに見た日本の山の中でいちばんだ。宿のご主人によると、頂上近くに雪が残っている今がいちばん綺麗に見えるとのこと。いくら見ていても見飽きない。

利尻といえば、山と昆布とウニである。年のうち2カ月しか獲ってはいけないバフンウニが解禁になったところで、宿の夕食はウニづくし。生ウニ、炙りウニ、ウニ丼、ウニの三平汁。贅沢にも、当分ウニはいらんわ、と思うくらいウニを食べました。

なかののつぶやき

「標高30メートルの空港から撮影した威風堂々の利尻山。明日はあの頂上に立っているのかと思うと、すこし不思議な感じがしました」

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