フランスの作曲家エクトル・ベルリオーズによる、4部からなるヴィオラ独奏付き交響曲。写真はベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団ゲストヴィオラ首席奏者Aida Carmen Soanea
私が1曲だけ選ばせて頂くのであればベルリオーズ「イタリアのハロルド」です。バイオリンを始めて50年あまり、演奏を聴いて本気で涙を流したのは後にも先にもこの曲だけだからです。
ヴィオラ協奏曲ともいえる交響曲ですが、実は、曲が最高に好きというわけではありません。むしろ演奏に参加する数カ月前までは全く知らない曲でした。どちらかというとベートーベンなどの古典派の曲の方が好きです。ただ、この曲で、音楽に対する意識を根本から変えられる最高の演奏に出会ったのです。
4年前からワールドドクターズオーケストラという団体に所属しています。世界45カ国以上から音楽好きの医師が集まって、その時々の異なる仲間でオーケストラを編成し、5日間朝から夕方まで合宿状態で練習し、4、5日目にチャリティー演奏会を開くというイベントです。演奏会は年に3回ほどあり、毎回開催国も変わります。それに年1回エントリーしているのです。
2016年のルーマニアでオーケストラの一員としてこの曲に出会いました。ヴィオラソロのAida Carmen Soaneaが弾く1楽章ソロ最初のピアニッシモのものすごく繊細かつ滋味に溢れ、しかし秘めた力強さを感じさせる音に衝撃を受けました。Aidaの人格、生き様、歴史、ひいては彼女の母国ルーマニアの、分割統合を余儀なく繰りかえされた歴史さえも彷彿とさせるような、初めて聴く音でした。心がふるえました。音楽の音ひとつでこんなにも人の心を揺さぶることができるのだということを改めて認識させられた幸せな時間でした。
今年の10月、ポーランドでショパンのピアノ協奏曲第1番他の演奏に参加します。次はどんな出会いがあるか楽しみです。