言葉を選びつつ、肺に影があること、腫瘍マーカーが高く、精密検査が必要なことを説明した。Yさんは動揺することなく、穏やかに頷きながらこう言われた。
「やっぱり、調子の悪さには理由があったのですね。ほっとしました……」
身体の不調を感じる時、私達は無意識のうちに納得の行く物語(現状を受け止められるだけの筋書き)を探す。飲み過ぎた、寝冷えしたなど、それで納得できれば不思議と体調不良も受け入れられる。
だが、いくら探してもしっくりくる物語が見つからない時、人はとても不安になる。腑に落ちないまま不安を抱えて生きることはとても辛いことである。例えそれが予後不良の病だとしても、納得のいく物語があれば、まだ心は救われる。Yさんの「ほっとした」という一言はそのことを教えてくれた。
Yさんはその後、呼吸器内科で肺腺癌と診断された。癌性リンパ管症、肺・骨・脳転移を伴っていた。約1年間の闘病の後、永眠された。画像がデジタル化される前の話で、コラムを書くにあたって借りたX線袋はずっしりと重たかった。測ってみると7.4kgあった。