膵癌切除対象患者の標準治療は根治切除+S-1による術後補助化学療法である
5編のランダム化比較試験(RCT)により,画一的な拡大郭清(リンパ節や神経叢)手技の予後改善への寄与は否定された
根治切除を追求するための門脈合併切除術は許容されるが,動脈合併切除術は今後のさらなる検討が必要である
腹腔洗浄細胞診や傍大動脈リンパ節転移陽性患者に対する外科的切除の意義はいまだ不明である
切除可能膵癌に対して術中放射線療法の有用性は証明されなかった
日本膵臓学会による「膵癌取り扱い規約 第7版」1)が2016年に刊行され,新たに客観性ならびに再現性のある切除可能性分類が収載された。多職種間で治療方針の決定に有用な進展度の情報共有がより容易になったことが最大の特徴と言える。切除可能膵癌(resectable:R)は標準的手術によってR0切除が達成可能なもの,切除可能境界(borderline resectable:BR)は門脈系と動脈系の浸潤により細分され,標準的手術のみでは組織学的にがん遺残のあるR1切除となる可能性が非常に高いと考えられると規定されている。
近年,画像診断,手術手技や周術期管理の進歩ならびに新規抗癌剤治療の登場により,膵癌の治療成績は明らかに改善されてきた。なかでもJASPAC-01試験により,R膵癌やBR膵癌の一部(腹腔洗浄細胞診陽性や傍大動脈リンパ節転移陽性例を除く)は肉眼的根治切除が得られ,S-1による術後補助化学療法が行われた場合,良好な5年生存率(44%,ゲムシタビン:24%)が得られた2)。
本報告以降,わが国では切除可能膵癌の標準治療は根治切除+S-1による術後補助化学療法となった。BR膵癌に関しては手術先行治療では,R膵癌の予後に比較して不良であり,術前治療による腫瘍制御の後に切除を行う臨床試験が行われており,術前治療の効果が期待されている。
膵癌の手術における肝要なポイントは,術前ではマルチスライスCT(multi-detector row-CT:MD-CT)を駆使して正確な進展度診断を行うこと,術中では病理学的根治切除を得るためにがん遺残のないように切除マージンを確保して領域リンパ節とともに腫瘍を切除すること,術後では術後合併症を低減して標準治療としての術後補助化学療法を完遂することである。本特集において,手術中の留意点を「膵癌診療ガイドライン」3)に沿って提示したい。