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失神後の血圧測定は原因鑑別に役立つか?

No.4930 (2018年10月20日発行) P.60

五十嵐裕太 (金沢医科大学高齢医学)

大黒正志 (金沢医科大学高齢医学教授)

登録日: 2018-10-23

最終更新日: 2018-10-16

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83歳,女性。デイサービスで入浴後に失神をきたし,顔面蒼白,嘔吐,血圧上昇を認め,当院に入院しました。入院後,血圧140/60mmHg前後で洞調律,起立時の低血圧や徐脈などの不整脈は一度も認めませんでした。高齢のため電気生理学的検査やヘッドアップ・ティルト検査は施行していません。失神後の血圧が高いか低いかで,神経調節性失神なのか徐脈に伴う失神なのか,鑑別の参考になるでしょうか。

(神奈川県 S)


【回答】

【明確な参考にはならず,立位試験や心電図による自律神経機能検査が必要】

失神は若年者と高齢者に多く1),高齢者では,老化に伴う圧受容器反射の機能低下による起立性低血圧の増加が有名です。もちろん,血管迷走神経失神や排尿・排便・食事・咳など特定の状況での状況失神を含む神経調節性障害なども起こりうるし,心原性や原因不明など様々な理由で失神をきたしえます。

今回の症例では,不整脈などの心原性の原因になりうる疾患も,起立時の低血圧も認めていなかった人が,入浴後に失神し,顔面蒼白・嘔吐など血圧の急な低下,つまりはショックのように極端に血圧が低下したことを示唆する所見を示すとともに,血圧上昇をきたしています。

本症例の場合,体位変換のみでは低血圧をきたしませんが,入浴により血管拡張をきたしていた状況が普段と異なり,血液分布が変化し循環血液量が減少しているところに,風呂から出る際の体位変換を伴った結果,低血圧をきたしたと推測されます。それに続く血圧の上昇も,低血圧を是正しようとする機能が自律神経障害の素因を持っていた結果,過剰となり生じたと考えられます。

このように,そのときの状況や失神後の血圧の変動は,自律神経障害に伴う失神かもしれないと気づくきっかけにはなりえますが,自律神経障害の程度や患者の薬剤の内服内容,体調などによって大きく左右され,場合によってはあたかも神経調節性失神に見える症例もあるため,一概に失神後の血圧の高い・低いが,両者の鑑別の参考になるかというと,難しいところだと思われます。

とはいえ,高齢者の場合,認知症などの関係でティルト試験や神経生理学的検査の実施が困難なことが多く,そういった場合,立位試験に加えて心電図で簡便に行える自律神経機能検査(coefficient of variation of R-R intervals:CVRR)や,協力が得られる患者なら,24時間血圧計で血圧の日内変動や日常生活動作に応じた血圧の変動を観察するなどの手段で,潜在的な自律神経障害の存在有無を診断するのも1つの方法かと思います。

【文献】

1) Moya A, et al:Eur Heart J. 2009;30(21):2631-71.

【回答者】

五十嵐裕太  金沢医科大学高齢医学

大黒正志  金沢医科大学高齢医学教授

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