聴神経障害の原因としてシスプラチンが報告されており,早期診断のためにも注意喚起が必要である
味覚障害の原因は多岐にわたり,神経障害のみならず粘膜障害が原因となるため,包括的な対応が重要である
視覚障害でも,シスプラチンが球後視神経炎の原因になることが報告されている
聴覚障害の頻度は,使用する薬剤とその累積用量,年齢などの患者背景によって異なり,4~90%とも報告される1)。化学療法のうち聴覚障害をきたす薬剤は白金製剤が知られており,特にシスプラチンが検討されている2)。聴覚障害は非可逆性であり,61~81%が両側性に生じる。カルボプラチンでの報告頻度は少なく,オキサリプラチンでは稀であるが,いずれも聴覚障害が報告されている。シスプラチンによる障害は,コルチ器の外有毛細胞に生じると考えられており,森田らの動物モデルの報告では,シスプラチン投与後に聴毛の変性や消失が観察されている3)。またSaitoらは,モルモット外有毛細胞にシスプラチンを作用させることで,外有毛細胞の電位依存性Caチャネルが阻害され,細胞内へのCaイオンの流入障害が起きることを報告している4)。さらに,シスプラチンによる細胞障害は,フリーラジカルの産生や過酸化脂質の産生が関与していると考えられており,外有毛細胞以外にも内有毛細胞,らせん神経節細胞,血管条における障害も報告されている。このほか,化学療法ではないが,アミノグリコシド系抗菌薬やループ利尿薬の使用が聴覚障害につながることが報告されている。化学療法中の患者で併用されることもあるため,注意が必要である。
主な症状は難聴と耳鳴りであるが,会話音域の聴力閾値上昇を伴わない場合は,障害があっても自覚症状に乏しいことが推定される。また,シスプラチン投与により高音部の閾値上昇が生じやすいものの,高齢者においては加齢性変化として起きるため,鑑別が難しい場合がある。小児においては,自覚症状を表現するのが困難であるなど聴覚の障害を適切に評価できておらず,潜在的に生じている可能性があると認識しなければならない。一般的に化学療法の副作用はCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)により評価されている(表1)5)。