No.4935 (2018年11月24日発行) P.67
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2018-11-21
最終更新日: 2018-11-20
医学部の入試面接では、ほぼ全員が医師になりたいから医学部を選んだと言う。いまだかつて、医学という学問に興味があるからというのを聞いたことがない。
文学に興味があるから文学部に、生物に興味があるから理学部の生物学科に、とかいうのがまっとうな選択だろう。そう考えると、これはある種の悲劇ではあるまいか。
医学部は、いまや初期研修をあわせて8年制の高度専門学校になってしまったかのような印象がある。志望の動機からしても、やむを得ないのかもしれない。
入試の理科、多くの医学部では、物理、化学、生物から2科目を選択する。化学はほぼ全員が選択。生物は高得点をとるのが難しいという傾向があるので、もう1科目はどうしても物理選択になりがちだ。
入学後の基礎生物学を、「生物自信あり」組と「生物自信なし」組にわけて教えている医学部は多い。個人的ちいさい調査によると7~8割が自信なし組のようだ。
入試というのは、志願者を序列化するだけでなく、入学後の科目履修に必要な能力を身につけているかを見極めるのも重要な目的である。そう考えると、生物学を医学部入試の必修科目にするのが望ましかろう。
とはいえ、全医学部が足並みをそろえるのでなければ、踏み切るには相当な覚悟がいる。というより、怖くてとてもできない。間違いなく受験者が激減し、入学者の能力の担保があやうくなりかねないからだ。
医学、特に基礎医学は、大きなカテゴリーでいうと生物学の一分野である。それをしっかり勉強していなければ、医学とはどういうものかすらイメージしにくかろう。
それどころか受験のことだけを考えて、一部のハイレベル進学校では、生物を履修すらしていない子がけっこういる。そういった状況で医学部を選ぶ、あるいは選ばせるというのはどこか間違ってはいまいか。
真面目にやればすぐに追いつけるのだから問題ないはず、と言われればそのとおりだ。しかし、入試勉強で疲れ果て、勉学意欲を喪失気味の学生がかなりいるという残念な現実を忘れてもらっては困る。
医学に興味を持てなければ、医学部に入れても、医師になっても、まったく楽しくない人生になってしまうのではないか。なんだか、当たり前のことが当たり前に考えられていないような気がしてならない。
なかののつぶやき
「日本医事新報社からでた医学部生向けの教科書です。これを面白いと思って読めるくらいでないとあかんでしょうね。新しい知見も多いので、昔に医学生だった先生方にもオススメです」