「なぜ死ななければならなかったのか」「本当に黒タグだったのか」―。大規模災害時にこうした気持ちを抱える遺族を支援する日本DMORT(災害死亡者家族支援チーム)。理事長の吉永和正氏(協和マリナホスピタル院長)に活動内容や課題を聞いた。
2005年、JR福知山線の脱線事故が発生しました。阪神・淡路大震災から10年目に同じ地域で起こった大災害で、災害医療の蓄積が試された事故でした。
大きな役割を果たしたのがトリアージです。事故では、標準化されたトリアージタグが200~300枚は使われました。それだけまとめて使われたのは日本で初めてのことでした。中でも特徴的だったのは、黒トリアージの積極的な実施です。事故では、黒を現場で判断し搬送の混乱を防ぐことができた、トリアージが非常に上手くいった、というのが私たち救急医療を担う側の評価でした。
事故の翌年の日本集団災害医学会で、私はこのトリアージについて発表をしました。ところが、同じセッションで心療内科の医師は「黒タグと判断された方の遺族を診療している。遺族は黒タグに納得していない」と発表したんです。救急医にとっては驚きでしたが、確かにその通りです。災害医療では、救命にフォーカスを当ててシステムが構築されてきました。しかし、黒と判断された方や遺族のその後についての視点は欠けていました。医療者として、亡くなった方や遺族にも目を向けなければいけないと気付いたのが、2006年に日本DMORTが発足したきっかけです(17年に法人化)。