1 がん治療医と生殖医療医との密な医療連携のために重要なガイドラインである
2 世界初のガイドラインは2006年にASCOから出された。その後,米国のOncofertility Consortium,ドイツ語圏のFertiPROTEKT,国際組織のISFPと,組織の設立と指針の発表が続いている
3 利用対象者は,化学療法や放射線治療ならびに生殖補助医療を取り扱うメディカルスタッフである。8つのがん領域を対象にCQに答える形式で診療指針を明示している
4 エビデンスではなくコンセンサスベースのガイドラインである
5 今後の課題は,がん患者に対する妊孕性温存に関する正しい情報の提供や,がん治療医と生殖医療医との密な連携を強化するネットワークの構築,妊孕性温存療法を選択する患者への経済的援助体制の確立などである
近年,がん治療の進歩に伴って,一部のがん患者はがんを克服することが可能になってきた。一方,一部のがん患者では,がん治療による性腺機能不全によって妊孕性の喪失(将来子どもを授かることができなくなる可能性)が惹起されることがわかりつつある。がん治療医は,予後良好でかつ挙児希望を有する小児,思春期・若年(adolescent and young adult:AYA)世代のがん患者やその家族に対しては,がん治療後の妊孕性喪失の可能性や将来の選択肢を残すための妊孕性温存療法に関する情報を,がん治療開始前に説明する必要性がある。そして,妊孕性温存を検討するためには,生殖医療を専門とする医師との密な連携が重要である。
しかし,対象ががん患者であることから,何よりもがん治療を優先すべきで,原疾患の進行の程度や患者の全身状態によっては妊孕性温存をあきらめざるをえない場合も存在する。日本癌治療学会が2017年7月に刊行した「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」1)は本領域に関するわが国初のガイドラインで,1つの総論と8つの領域にわたる総計40個の臨床的疑問(clinical question:CQ)に対する推奨を示した本領域では世界初の様式のガイドラインである。
本領域は治療開始前から治療後長期にわたって,がん治療医と生殖医療を専門とする医師との密な医療連携が重要となることから,本ガイドラインはがん治療開始前の妊孕性温存療法の有無に関して,各種メディカルスタッフが考慮する際の参考となり,その適切な使用により妊孕性温存療法の可否を判断しやすくなる。最終的に小児,AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上という恩恵がもたらされることを志向して,本ガイドラインは作成された。
残り3,361文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する