(千葉県 K)
【室温での放置は不可。複数回使用には徹底した無菌操作が必要条件】
各ワクチンメーカーが提供するインタビューフォームによると,一部のインフルエンザワクチンでは,加速試験という形で25℃遮光3カ月間保存しても力価試験で対照品と変化を認めなかったという報告もあります。しかし,これは非臨床試験であり,通常は製造→輸送→保管→接種という流れの中で温度管理をされたワクチンを使って治験が実施され,予防接種としての有効性ならびに安全性が確認されています。
したがって,温度管理を逸脱したワクチンには有効性を損なうリスクならびに安全性に欠けるリスクが生じるため,適正なワクチンとして接種することは難しく,廃棄せざるをえません。いったん室温になったワクチンは,接種の準備に至ったので,再度保管に逆戻りすることは不適切です。
2018年9月12日発の厚生労働省通知に「既に一部の接種液が吸引されているバイアルを使用する場合は,最初の吸引日時を確認し,最初の吸引から24時間を経過していた場合は使用せず,適切に廃棄すること」1)と,24時間以内の複数回使用を認める記載があります。夜に接種液を一度吸引したバイアルを直ちに冷蔵庫に戻して温度管理を行い,翌日に残液を接種することは可能です。
ただし,これは「ワクチンの取り扱い上の注意等に留意した上で,その効率的な使用に努める」ために定められた手順であり,24時間以内という数字について医学的な安全性についての根拠は示されていません。ワクチンに保存剤(チメロサール)が含まれていたとしても,チメロサールには瞬時の殺菌作用は期待できず,ワクチンの複数回使用に際して細菌による汚染が健康被害を起こした事例の報告2)もあり,無菌操作を徹底していることが複数回使用の必要条件です。
【文献】
1) 厚生労働省医政局経済課長, 他:季節性インフルエンザワクチンの供給について. 医政経発0912第1号, 健健発0912第1号, 健感発0912第5号. 平成30年9月12日.
2) Stetler HC, et al:Pediatrics. 1985;75(2):299-303.
【回答者】
崎山 弘 崎山小児科院長