症状,受傷機転,スポーツ競技種目などをよく聞き取り,本疾患を念頭に置き,身体所見を注意深くとることができるかが正しい診断をするために重要である
膝蓋骨脱臼は,自然に整復されることも多いが,単純X線で,骨形態や骨片の有無などを確認することで,診断の手がかりとなることがある
初回の膝蓋骨脱臼は,保存的治療が第一選択となることが多いが,骨形態や脱臼時に生じた骨片の大きさおよび部位などによっては手術的治療になることもあるため,急性期の対応後には専門医に紹介するべきである
膝蓋骨不安定症(膝蓋骨脱臼)は,疼痛や腫脹は少なく,“不安定感”を訴えることが多い。特に膝蓋骨が外側に脱臼しそうな不安感を自覚する。また,不安感は日常生活では自覚せず,ジャンプの着地や大腿四頭筋が強く収縮したときなどの運動時のみに起こることもあり,症状の聴取などから本疾患を念頭に置いた診察が重要になる。複数の原因で生じることが多く(表1),膝蓋骨や大腿骨の形態,膝蓋骨と脛骨をつなぐ膝蓋腱の走行などの身体的特徴から生じるものや,膝蓋骨内側と大腿骨内顆をつなぐ内側膝蓋大腿靱帯の断裂およびゆるみなどの外傷により生じるものが挙げられる。
解剖学的な形態異常があるリスクの高い症例1)では,スポーツや日常生活の動作によって膝蓋骨が外側に脱臼してしまうことがある。初回の脱臼後15~44%が再脱臼(18歳未満が高リスク)を生じる1)~3)と言われており,容易に脱臼を繰り返す状態(反復性膝蓋骨脱臼)に進行することもある。反復性膝蓋骨脱臼は,脱臼に伴い膝の力がガクッと抜ける「膝くずれ」という症状がしばしばみられ,膝蓋骨および大腿骨滑車部の骨軟骨損傷や関節軟骨の変性をきたし,膝蓋大腿関節における変形性関節症の原因となる。また,膝蓋骨脱臼には,外傷の既往がなく,ある一定の膝屈曲角度において常に膝蓋骨が脱臼する「習慣性膝蓋骨脱臼」や,膝蓋骨が常に脱臼している「恒久性膝蓋骨脱臼」などがある(表2)。
膝蓋骨脱臼の新鮮例では,膝関節の疼痛や腫脹が生じ,歩行も困難になる。急性期では,膝蓋骨が大腿骨に対して外側に脱臼することが多いものの,自然に整復されることも少なくない。脱臼したまま病院を受診する患者は稀であり,頻度の高い半月板や靱帯損傷と間違えやすく注意が必要である。膝蓋骨の脱臼時や整復の際に膝蓋骨や大腿骨の関節面の一部が骨折することがあるため,単純X線の軸写像が診断の手がかりとなることもある。脱臼後に不安感や疼痛の症状が残存する例が30~50%にあると言われている4)。