誤嚥性肺炎を診断する明確な定義は存在しないが,誤嚥性肺炎の存在は生命予後や肺炎再発に影響を及ぼす
肺炎患者の診療では,誤嚥のリスクの有無や嚥下機能の状態を総合的に評価する必要がある
誤嚥性肺炎の原因菌として,嫌気性菌やグラム陰性腸内細菌のほか,口腔レンサ球菌の可能性も考慮する
高齢者では肺炎を繰り返すことが問題となるが,その要因として,年齢や喫煙,肺炎の既往,また,基礎疾患などの様々な因子が挙げられる。一方,高齢化が進むわが国では,市中で発症した肺炎(以下,市中発症肺炎)の患者の約60%が誤嚥性肺炎であることが報告されているが1),誤嚥性肺炎の存在は,繰り返す肺炎の最も重要なリスク因子であり,実際,誤嚥性肺炎に関するメタ解析において,肺炎の再発,すなわち,繰り返す肺炎に影響を与えることが示されている2)。
誤嚥性肺炎は,“誤嚥の危険因子を有する宿主に生じる肺炎”と定義されるが,誤嚥性肺炎を明確に診断する基準は存在しない。この理由として,誤嚥により引き起こされる肺炎のリスクは,個々の患者のそのときの全身状態や疾患の状態に影響を受ける。また,各リスク因子は複雑に交絡している場合が多く,診察時の誤嚥のリスク因子や嚥下機能の評価のみでは単純に予測することができない。さらには,こうした因子以外にも,咳反射や局所の気道クリアランス能など,予後を規定する様々な因子が存在するため,誤嚥性肺炎患者を明確に区別することは難しい。
「成人肺炎診療ガイドライン2017」3)では,「医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare associated pneumonia:NHCAP)および市中肺炎(community acquired pneumonia:CAP)患者において,誤嚥のリスク因子を評価することを弱く推奨する(エビデンスレベルC)」と明記されている。誤嚥のリスク因子に関してはこれまで様々な報告がなされており,全身状態の不良,認知症,低アルブミン血症,睡眠薬の使用などが誤嚥のリスク因子として考えられている。
一方で,「高齢者」の定義に関して,日本老年医学会より,65~74歳を「pre-old age」,75歳以上を「old age」として定義することが提唱されたが4),誤嚥性肺炎が多く含まれる超高齢者の集団においては,「年齢」は必ずしもリスク因子にはならない。当然,誤嚥のリスク因子の保有イコール誤嚥性肺炎発症ではないが,現状,誤嚥性肺炎の診断基準がない以上,こうした因子の保有の有無を把握することは重要であり,「成人肺炎診療ガイドライン2017」3)では,「誤嚥のリスク因子」について記載されている。すなわち,表1に記載されているような因子を有する患者が肺炎を発症した場合には,常に誤嚥性肺炎の可能性を考慮することが必要である。