編著: | 坂本 晋(東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センター長/東邦大学医学部内科学講座呼吸器内科学分野(大森) 准教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 268頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2024年11月20日 |
ISBN: | 978-4-7849-0108-1 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると,本書の全ページを閲覧できます)。 |
東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センターの実践的な診療アプローチを余すところなく紹介。
ガイドラインには載っていない,日常診療で直面する疑問・ピットフォールへの具体的な解決策がここにあります。
■センターでの取組みの紹介や症例紹介で,プロフェッショナルの視点・考え方を学べます。巻末には現場の医師が聞きたいQ&Aも掲載。
■呼吸器内科医,看護師,理学療法士,管理栄養士の視点から,間質性肺炎診療に必須のチーム医療の実際がわかります。
■豊富な胸部HRCT画像,病理所見のほか,呼吸リハビリテーションの動画コンテンツを収録。間質性肺炎診療の基礎はもちろん,実践に役立つ情報が満載!
序文
診断・治療の変革とともに歩む:大森病院間質性肺炎センター設立の背景と展望
第1章 間質性肺炎の原因・疫学・歴史
1 間質性肺炎の歴史と手引き・ガイドラインの変遷
2 間質性肺炎の疫学・予後・死因
3 間質性肺炎治療の変遷
第2章 間質性肺炎の病態生理
1 間質性肺炎の病態
2 間質性肺炎のバイオマーカー
第3章 初診患者のみかた
1 患者・患者家族への疾患・病状の説明
2 初診患者の診察の流れ
3 問診事項・診察
第4章 間質性肺炎の検査・診断・鑑別疾患
1 検査・診断のアルゴリズム・鑑別疾患
2 血液検査
3 画像診断
4 病理診断
5 MDDの実際,エビデンス
6 肺活量検査
7 歩行試験
第5章 原因不明の間質性肺炎・肺線維症
1 原因不明の間質性肺炎の分類
2 検査と診断
3 治療法と予後
第6章 様々な原因による間質性肺炎・肺線維症
1 様々な原因による間質性肺炎の分類
2 検査と診断
3 治療法と予後
第7章 治療・薬剤の選択
1 現在使用可能な治療薬のエビデンス
2 薬剤選択の流れ
3 薬剤の使用法と有害事象
第8章 酸素療法
1 酸素療法の適応とエビデンス
2 酸素療法の有効性
3 酸素使用時の注意点と在宅モニタリング
第9章 間質性肺炎急性増悪時の対応
1 間質性肺炎急性増悪の定義・診断
2 間質性肺炎急性増悪時の治療
第10章 呼吸リハビリテーション
1 包括的呼吸リハビリテーションの概要
2 当センターにおける呼吸リハビリテーション導入のフロー
3 当センターにおける呼吸リハビリテーションの実際
第11章 栄養療法
1 栄養療法の意義とその効果
2 当センターにおける栄養療法導入のフロー
3 当センターにおける栄養療法の実際
第12章 間質性肺炎患者への日常生活支援
1 呼吸困難の対処法,日常生活の注意点
2 患者教育,在宅生活についての指導
Q&A
Q1 抗線維化薬を導入するコツを教えてください
Q2 IPAFの診断基準を満たす患者さんには,どのような治療が適していますか?
Q3 間質性肺炎急性増悪時には,どんな病態を鑑別すべきですか?その方法は?
Q4 間質性肺炎急性増悪時の治療法はどのように選べばいいですか?
Q5 間質性肺炎急性増悪の際の呼吸管理はどのように進めるべきですか?
Q6 IIPで痩せてきているステロイド薬投与中の方には,どんな栄養療法が適していますか?
Q7 リハビリテーションに消極的な患者さんには,どのようにアプローチすれば良いですか?
特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)は原因不明の間質性肺炎の総称であり,9型に分類される。中でも特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)はIIPの半数以上を占め,5年生存率30%以下というきわめて予後不良の疾患である。抗線維化薬の登場によりその予後は改善されつつあるが,依然として完治は望めないという現状がある。
IIPの診断・治療は2000年以降,国内外でガイドライン・手引きが発表され,改訂も重ねられて診断・治療の標準化が進んでいる。中でもIPFの治療の分野では劇的な変革が進み,それまで使用されていたステロイド薬から抗線維化薬へと大きなパラダイムシフトが起こった。
しかしながら,有効性の確立している抗線維化薬2剤を除いては,有効な薬物療法は現時点では存在しない。また,これらの抗線維化薬においても努力肺活量の低下を抑制する効果はあるものの,疾患自体の改善までは望めない。
薬物療法の効果には限界があるという現状から,慢性進行性の病態を呈する間質性肺炎の治療・管理にあたっては薬物療法のみではなく,酸素療法,呼吸リハビリテーション,栄養療法,在宅指導,服薬指導,緩和ケアなどの非薬物療法ならびに多分野による集学的治療がきわめて重要であると考えられている。このような医療を実現するためには,専従医師に加え,専任の看護師,理学療法士,管理栄養士,薬剤師,メディカルソーシャルワーカーが随時協力する体制を構築し,チームとして診療にあたる包括的治療介入が重要となる。
このような集学的治療のための包括的な治療介入を促進するため,2017年に本間 栄・前呼吸器内科教授により東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センターが設立された。当センターでは適切な診断,治療,患者会の設立,地域医療の活性化,チームとしての包括的治療介入などを目標としており,呼吸器内科医のほかにリハビリテーション科の医師や理学療法士,管理栄養士,看護師,薬剤師がチームとして1人の患者に対して包括的に介入できるようなシステムを構築している。さらには往診医との連携,酸素業者との連携を密にとり,病院と在宅医療との距離がより近くなるように工夫している。また患者教育の一環として,年に一度,患者向けの間質性肺炎・肺線維症勉強会を開催し,疾患啓蒙とともに,患者の日常生活により近い食事療法,リハビリテーション,呼吸法などのレクチャーを各領域の専門家に講演して頂いている。
本書ではこれらの各領域の専門家が,実際に当センターで行っている診療のフローを詳細に記載している。こういった間質性肺炎患者に対する包括的アプローチ,集学的治療について記載されている書籍は類がなく,間質性肺炎診療に関わる多くの医療スタッフの方々の参考となれば幸いである。治療ガイドラインの中には記載されていない,日常診療に即した素朴な疑問,ピットフォールを解決できるような内容になっており,本書が臨床現場における医療の質の向上を図り,ひいては間質性肺炎患者のQOLの改善につながればと願っている。当センターの活動を日本全国に広めることで,当分野の医療の向上を図り,それぞれの患者に即した医療の提供につながっていくものと確信している。
本書の作成にあたり,多大なるご尽力を頂いた東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センターのスタッフの方々,出版に際しご協力頂いた日本医事新報社の方々にあらためて深謝する。
令和6年10月
東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センター長/
東邦大学医学部内科学講座呼吸器内科学分野(大森) 准教授
坂本 晋