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坪井信道(10)[連載小説「群星光芒」188]

No.4775 (2015年10月31日発行) P.72

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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  • 毎月3と5の日に信道は患者を前にして塾生全員に蘭方流の臨床講義をした。

    「まずは患者の性別、年齢を確認して主訴をきくのじゃ」 

    信道みずから病状を診断して所見を語り病名を決定する。塾生には病因を教え、治療方針を定める。患者には家でおこなう摂生法を教えた。

    塾生たちにはさまざまな癖があった。虚勢を張る者がいるかと思えば、悩みがあっても人に悟られまいとする者もいる。塾生の顔色が悪いのは病気なのか、あるいは何か悩んでいるのかを判断せねばならない。信道は講義の合間に塾生と問答を交わすことにしていたが、かれらの顔つきや言動を見分けるためでもあった。

    「わしは医書を読むのが好きで、診療よりも医書をひらく方が楽しみじゃ。しかし医の大海原がひろがるのは医書よりも診療の現場である。おまえたちもそこに志を立てて真理をつかまねばなるまい」

    塾生の1人が質問をした。

    「診察場で毎日のように患者の悩みや苦しみをきかされると、ともすれば手前どもの心が頑になります。患者の訴えにいちいち応じていれば、こちらの身も心もくたくたです。そうならぬには気持ちをどう保てばよろしいのでしょうか」

    「そのような態度で患者に接していれば良心に恥じぬ診療はできぬ。苦しいが相手の悩みの中にはいりこんで患者を支えるのじゃ。わしは患者と親しく話せる医師ではない。ことに重病の患者に向き合うときは気持ちが揺れる。しかし感情に流されてはいけない。患者を診るときはあくまでも慎重に、できるだけ淡々と対処するように心掛けている」

    「患者が急変して死にいたったときはとても動揺します」と別の塾生がいう。

    「そのようなとき逃げてはならぬ。嘘やごまかしはもっとも禁物じゃ。すべてを打ち明け真摯に家の者と話をする。それが長く信頼をつなげるもとになる」

    残り1,612文字あります

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