『医心方』の各巻を紐解いた多紀元堅は、夜を徹して読みふけった。
巻十九と巻二十は製薬と調剤の記述であり、いわば巻一の総論につづく各論に当たるものだった。
巻二十一から巻二十四までは婦人病と妊婦・出産の項である。婦人の乳癰、陰瘡、陰脱、あるいは経水不通、経水痛、尿血、妊婦禁食法、妊娠悪阻、胎動不安、妊婦痢病、腹痛などについて治方を記していた。
また難産、横産などの出産に関する注意と手当があり、胎児の男女識別法と出産日の占い、子無きを治す法、胎児の死亡を知る法にもおよんでいた。
巻二十五は小児編を立てる。そこには夜啼き、疳の虫、鵞口瘡、外傷、皮膚病、竹木の誤呑にいたるまで小児疾病のすべてが記述されていた。
この巻に蘭方の牛痘種痘を凌ぐ新法がないかと目をこらしたが、小児編は上下2巻の膨大な内容を含み、とても一晩では目通しできぬので後日に期することにした。
巻二十六から巻二十七は養生編であり、若さを保つ法と身におよぶ危険の避け方、呼吸法や体操法、あるいは住居における養生の要諦が述べてあった。
巻二十八は圧巻だった。
閨房での心得と性生活の養生法、そして唐国皇帝の房中秘技を微に入り細をうがって筆述する。その生なましい描写に興奮した元堅はなんども生唾を呑みこんだ。
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