【胸腔鏡手術における新しいマーキング方法の開発】
2011年に,米国National Lung Screening Trialにより,重喫煙者を対象とした低線量CT検査を用いた肺癌検診が,胸部X線検診より20%の肺癌死亡率減少効果をもたらすことが報告され,早期発見の重要性が示された1)。
微小肺癌に対する手術症例は増加傾向にあるがすりガラス陰影を呈する早期肺癌のうち,陰影に対する充実性成分の比率,すなわちconsolidation/tumor ratio≦25%は,画像的に非浸潤がんと考えられ,標準的手術である肺葉切除よりも切除範囲が小さく,肺機能を温存する縮小手術によっても,その予後は遜色ないことがわかってきた。
胸腔鏡手術では,触知困難なすりガラス陰影を呈する腫瘍の位置を正確に同定することは困難である。筆者らの施設では,致死的な空気塞栓が報告されているCTガイド下フックワイヤーマーキングに代わり,より安全な気管支鏡ガイド下に臓側胸膜を染色する方法を行っているが,胸腔鏡手術では,術野確保のために肺を虚脱させるほか,牽引などの手術操作によっても臓器変形をきたしやすく,胸膜から距離のある深部病変では,腫瘍の正確な位置をとらえにくいことがわかってきた。そのため,近距離無線通信の用途で普及しているradiofrequency identification技術を導入した無線マーカーの開発を行い,深部病変に対しても正確な位置同定が可能となることを報告した2)。臨床応用が期待されるわが国発の新技術である。
【文献】
1) National Lung Screening Trial Research Team:N Engl J Med. 2011;365(5):395-409.
2) Yutaka Y, et al:Surg Endosc. 2017;31(8):3353-62.
【解説】
豊 洋次郎 京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター開発企画部