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緒方洪庵(10)[連載小説「群星光芒」218]

No.4806 (2016年06月04日発行) P.74

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 緒方洪庵が江戸城奥医師に就任して10日ほど経った頃のことだったが、侍医頭の伊東玄朴が何の前触れもなく告げた。

    「まもなく貴殿は『西洋医学所』の2代目頭取に任命されることになる。奥医師との兼任じゃ」

    突然の話に洪庵は不意打ちをくらったように驚いた。

    2代目頭取は長崎海軍伝習所でオランダ軍医ポンペの訓育を受けた奥医師の松本良順が適任であると、もっぱらの噂だった。洪庵も松本良順で決まりだと思い込んでいた。ただし、初代頭取の大槻俊斎が亡くなって5カ月も経つのに2代目が決まらぬとはいささか腑に落ちなかった。

    「前もって貴殿を『西洋医学所』にご案内いたそう」

    玄朴はそういい、急な話に茫然としている洪庵を神田和泉橋に近い御徒町の角地にある西洋医学所に連れていった。そこは玄朴の医塾『象先堂』に程近い元祐筆組頭北隅十郎の空き屋敷だった。

    古色蒼然とした旗本屋敷の周囲に深い溝と剝げ落ちた海鼠塀をめぐらし、古ぼけた長屋門をくぐって長い敷石の歩道を渡ると傾きかけた表玄関にゆき当たる。玄関式台を上がると群青で塗りつぶした片戸があり、その先が畳敷きの学舎だった。

    在校生徒は30名ほど。大半は貧乏書生なのか、色褪せて折り目の消えた小倉袴をはいている。

    蒸し暑い中、生徒たちは寺子屋のように机を並べ、汗を拭いたり、団扇で煽いだりして自習していた。医学所取締役の玄朴が顔を覗かせると畏まって黙礼した。

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