耳下腺腫瘍は耳下腺に発生する腫瘍で,良性:悪性の割合は約10:1であり良性腫瘍が多い。病理組織学的に多彩であり,良性で10種類,悪性で20種類以上に分類されている。良性腫瘍では多形腺腫あるいはワルチン腫瘍で約90%を占めている1)。悪性腫瘍には様々な悪性度の腫瘍があり,それによって予後が著しく異なる2)。
主訴は耳前部あるいは耳下部の無痛性腫瘤であることが多い。疼痛,顔面神経麻痺,周囲組織との癒着(可動性不良)は悪性サインとして重要である。疼痛は重要な所見で,悪性腫瘍において約半数に認められるが,良性腫瘍では炎症の併存を除けば5%程度とされている。顔面神経麻痺は良性腫瘍では一般にない症状である。
視・触診で耳下腺腫瘍を疑ったなら,まず施行すべき検査は超音波(ultrasonography:US)と穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNA)である。手術適応と判断したならばMRIを行う。FNAは基本的にはUSガイド下で行うのがよい。多形腺腫あるいは悪性腫瘍に対する播種の指摘があるが,頻度は稀であり,危険性より有用性が断然勝っていると考えられる。FNAの病理組織正診率は多形腺腫で80~85%,ワルチン腫瘍で70~75%である1)。
CTよりMRIのほうが腫瘍の描出が良好であり,MRIにおいて多形腺腫は一般的にはT1強調で低信号,T2強調で高信号を示す。特にMRIの冠状断は手術施行時に有用な情報を得ることができる。99mTc唾液腺シンチはワルチン腫瘍の約80%の症例で集積を認める。以上の診断で多形腺腫とワルチン腫瘍はほぼ術前診断可能である。一方,悪性腫瘍,特に低/中悪性腫瘍の診断は困難な場合がある3)。FNAの診断率は良性腫瘍と比較して不良である。
組織型が確定できない症例は積極的な手術適応と考えられ,術中迅速診断を行うことが必須である。
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