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チック[私の治療]

No.4980 (2019年10月05日発行) P.51

飯田順三 (奈良県立医科大学医学部看護学科人間発達学教授)

登録日: 2019-10-02

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  • チックとは突発的,急速,反復性,非律動性,常同的な運動あるいは発声と定義されている1)。多彩な運動チック,および1つ以上の音声チックの両方が同時に存在するとは限らないが,疾患のある時期に存在したことがあり,1年以上持続するものをトゥレット症という。

    ▶診断のポイント

    一般に不随意なものとして体験されるが,様々な時間の長さで随意的に抑制できる2)。運動性チックと音声チックはそれぞれ単純性と複雑性にわけられる。単純性運動チックはまばたき,肩すくめ,四肢の伸展などであるが,顔面のチックが多い。複雑性運動チックは持続時間がより長く,頭の回転と肩すくめが同時に起こるような単純性チックの組み合わせを含む。単純性音声チックでは咳払い,鼻鳴らし,うなりなどがあり,複雑性音声チックでは状況に合わない単語や句の繰り返しが多いが,反響言語(他人の言った言葉の繰り返し)や汚言症(社会に受け入れられない,しばしば卑猥な単語を言ってしまうこと)がみられることがある。またチック症では,強迫症や注意欠如・多動症(ADHD)などの併存がみられることが多い。

    他の運動障害との鑑別も重要である。特に舞踏病,バリスムス,アテトーゼ,ジストニー,ミオクローヌスなどの不随意運動との鑑別が必要である1)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    チックの重症度にかかわらず,家族ガイダンスや心理教育および環境調整は治療の基本である。チックは親の育て方や本人の性格に問題があって起こるのではないことを確認して安心を図る2)。チックは経過中に消長を繰り返したり,部位,種類,頻度が変動することを伝えて,些細な変化で一喜一憂しないことを勧めるとともに,不必要な緊張や不安を減らすように促す。チックをやめるように叱らないと同時に,チックにまったく言及しないようにして家族が緊張することも避けて,本人の特徴のひとつとして受容していくことを勧める。

    チックはドパミンをはじめとする神経伝達物質のアンバランスが基盤にあり,ストレスがかかる環境下で症状が増悪する。家庭や学校で親や教師に理解してもらい,なるべくストレスのかからない環境になるように配慮する。

    上記の対応でも症状が軽減せず重症であれば,薬物療法を行う。チックに対する薬物療法の中心は抗精神病薬である。チックに対してエビデンスのある抗精神病薬はリスパダール®(リスペリドン),エビリファイ®(アリピプラゾール),セレネース®(ハロペリドール)などである。また,抗精神病薬以外ではカタプレス®(クロニジン)が有効であるとされている。

    ADHDが併存する場合には,コンサータ®(メチルフェニデート)はチックを増悪する可能性があり禁忌となっている。ストラテラ®(アトモキセチン)か,もしくはADHDにもチックにも有効であると言われているインチュニブ®(グアンファシン)を処方する。また,強迫症が併存する場合にはセロトニン再取り込み阻害薬の効果は乏しいとの指摘があるが,抗精神病薬との併用により有効な場合がある。

    薬物療法以外にハビットリバーサルという認知行動療法が注目されている。これはチックをしたくなったときに拮抗する運動を行ってチックを軽減させるもので,気づき訓練,チックのセルフモニタリング,リラクゼーショントレーニング,抵抗反応訓練,動機づけ技法から構成される。

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