インフルエンザは高熱,上気道症状,全身症状をきたし,時に生命予後に関連する脳症や呼吸不全の契機となりうることから,早期診断および対応が重要な呼吸器系ウイルス感染症である。近年は,インフルエンザの一部でも高熱をきたさない例が少なからず検出されており,インフルエンザ診療のgold timeを逃す可能性があるので注意したい。
インフルエンザの診療について,欧米では軽快まで自宅安静を促すが,わが国では迅速診断と抗インフルエンザ療法により早期の社会復帰を目標とする点が異なる。背景には,わが国の経済性と平等性に優れた医療保険制度により,欧米に比較して受診アクセスが良好な点が挙げられる。さらに,学校保健安全法規則に定められたインフルエンザ出席停止期間の基準は,会社をはじめ出勤停止等の基準として広く認知されている。結果,診断と迅速な回復への社会的要求は高まり,特に担当医によるインフルエンザ診断には客観性が要求される。
現在,インフルエンザ迅速検査キットはイムノクロマト法を用いており,概ねインフルエンザ発症から6時間以上経過した時点で十分なウイルス量を有するが,当該検査(D 012・23 インフルエンザウイルス抗原定性)は発症後48時間以内に実施した場合に限って算定できるので,診療録の病歴にその旨を記載する必要がある。
インフルエンザの典型的な臨床像は,突然発症する高熱,咽頭痛や咳などの上気道症状や呼吸器症状,多関節痛などの全身症状とされてきた。近年,高齢者のB型インフルエンザに加え,A型インフルエンザでも腋窩37.5℃以下の症例が少なくないことが判明した1)。また,迅速診断キットの普及に伴い,インフルエンザ患者との接触歴の有無にかかわらず,化膿性咽頭炎や急性鼻副鼻腔炎,その他の呼吸器系ウイルス感染症に合併したインフルエンザもあることが判明した。そこで,インフルエンザ流行期のインフルエンザ診療においてはワクチン接種歴,インフルエンザ患者との接触歴の有無,咽頭所見で化膿性咽頭炎や急性鼻副鼻腔炎の所見の有無にかかわらず,上下気道症状の例にはノイラミニダーゼ阻害薬が有効とされる発症48時間以内であれば,インフルエンザ迅速診断キットの活用を積極的に推奨したい。ただし,検査結果の判断にあたっては迅速診断の結果によらず担当医が初診の時点でインフルエンザか否かを判断し,検査陰性であっても偽陰性の可能性があるから翌日検査のために再受診を促すようなことは「待合室感染予防」の観点から厳に慎みたい。
治療は,患者に対して安静と十分な飲水を指示するほか,自身のマスク着用による感染拡大阻止は完全ではないことを説明したい。また,担当医の判断により抗インフルエンザ療法,そのほか,必要とあれば消炎鎮痛薬を併せて処方するが,細菌感染合併の所見が見当たらないのに安易に抗菌薬療法を併用するのは慎むべきである。
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