発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の患者数は以前より減少傾向にあるが,いまだ歩行開始後に診断される症例があり,健診体制の見直しが行われている
アリス徴候は脱臼によって生じた脚長差を簡便に評価できる診察手技で,片側性の股関節脱臼の診断に有用である
アリス徴候は股関節脱臼以外に骨性に脚長差を生じている疾患でも陽性になることがあるため注意を要する
アリス徴候(Allis sign)は,発育性股関節形成不全(以下,先天性股関節脱臼)の診断やスクリーニングに用いられる診察手技である。先天性股関節脱臼は以前よりは減少傾向にあり,患者数の減少とともに診察する機会も減少し,疾患の認識が薄れていることから診断が遅れ,歩行開始後に診断される症例が報告されている。近年,先天性股関節脱臼の検診制度の見直しが進む中,本稿では先天性股関節脱臼の診断およびスクリーニングにおけるアリス徴候について再考したいと思う。
アリス徴候は,仰臥位で膝・股関節を屈曲して両下腿を揃えて左右の膝の高さを比べる診察手技で,膝の高さに差が生じるときに陽性とする。この診察手技は,わが国では多くの成書にAllis signとして記載されている。海外の成書にはAllis signもしくはGaleazzi signとして,1985年発刊のPediatric Orthopedics of the Lower Extremityに記載されている1)。股関節,膝関節を屈曲させ両足を水平な検査台に揃えるという診察手技と1),股関節,膝関節ともに90°屈曲位とする診察手技の記載があるが2),前者が一般に用いられることが多い。本稿ではAllis signとGalleazzi signは同じものと考え,以下ではアリス徴候と記す。
股関節の脱臼では,大腿骨頭が寛骨臼の後上方に位置するために,見かけ上,大腿の長さが短縮する。乳幼児では診察時に骨盤の傾きをとり,まっすぐな状態で脚の長さを評価することが難しく,しばしば脚の長さが異なって見えることがある。アリス徴候は仰臥位に寝かせることで骨盤の傾きをとり,脚の長さを評価することができる。前述したように,脱臼している股関節では,見た目の大腿の長さが短縮しており,罹患側は膝の高さが低くなる。このため,片側性の股関節脱臼の診断にアリス徴候は有用である(図1)。一方で両側が脱臼している症例では,アリス徴候は陽性とならず有用ではない3)。また,この診察手技でとる肢位では,大腿や下腿の長さが膝の高さに影響してくるため,骨性によって長さの異なってくる疾患でもアリス徴候が陽性となることがあるため注意を要する。
残り2,640文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する