急性冠症候群例に対しては2004年に報告されたPROVE-IT試験以来、治療による到達LDL-C値は低ければ低いほど良いとするエビデンスが集積しつつある。では、同じ虚血性イベントである脳梗塞ではどうだろう? この点を検討したランダム化試験 "Treat Stroke to Target" がPierre Amarenco氏(パリ大学、フランス)により報告された。
Treat Stroke to Target試験の対象は、フランスと韓国で登録された、アテローム性動脈硬化病変(含:大動脈、冠動脈)を認める、脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)近時発症の2873例である。平均年齢は67歳、TIAは14%のみだった。脳卒中・TIA発症からランダム化までの日数中央値は6.0日間、12%に脳血管障害の既往があった。
これら2873例はLCL-C目標値「70mg/dL未満」群と「100±10mg/dL」群にランダム化され、非盲検下で3.5年間(中央値)観察された。
その結果、試験期間中のLDL-C平均値は、試験開始時の135mg/dLから、「70mg/dL未満」群で65mg/dL、「100±10mg/dL」群で96mg/dLとなった。
そして1次評価項目である「(心)血管系死亡(含・突然死)、脳梗塞・潜因性脳卒中、緊急頸動脈血行再建を要するTIA、心筋梗塞、緊急血行再建を要する不安定狭心症」の発生率は、「70mg/dL未満」群で8.5%、「100±10mg/dL」群は10.9%となり、「70mg/dL未満」群における有意なリスク低下が認められた(補正後ハザード比 [HR]:0.78、95%信頼区間 [CI]:0.51-0.98)。
ただし本試験は、スポンサーの資金不足により早期中止となっている。その結果、予定登録患者数(3786例)のみならず、1次評価項目イベント発生数も想定していた385に遠く及ばず、277のみである。なお1次評価項目は、試験開始時(2010年)の「血管系死亡、非致死性の脳卒中再発・心筋梗塞」から本年5月、先述した1次評価項目に変更されている。
なお、LDL-C低下により増加が懸念される頭蓋内出血は、「70mg/dL未満」群でHR:1.38(95%CI:0.68-2.82)となり、有意なリスク増加は認められなかった。また韓国で登録された712例のみで検討すると、「70mg/dL未満」群における1次評価項目について、HRは1.11(同:0.57-2.15)と有意差を認めなかった。ただしフランス登録例(HR:0.73、95%CI:0.57-0.95)との有意なばらつきは認められなかった(交互作用P=0.26)。
本試験はフランス政府、ならびに脳卒中サバイバー非営利団体(SOS–Attaque Cérébrale Association)からの出資で行われた。またPfizer、Astra- Zeneca、Merckの各社からも条件なしの補助金を受けた。
本研究は報告と同時に、N Engl J Med誌にオンライン掲載された。