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上顎洞癌[私の治療]

No.4989 (2019年12月07日発行) P.44

折田頼尚 (熊本大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授)

登録日: 2019-12-08

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  • 副鼻腔における悪性腫瘍は癌腫が約90%と,その大部分を占める。組織型では扁平上皮癌が最多で癌腫の約80%を占め,腺癌や腺様囊胞癌,粘表皮癌,移行上皮癌などが頻度は少ないものの存在する。両側内嘴角と下顎角を結ぶ線(Öhngren線)によって鼻副鼻腔を二分した場合,この線よりも前下方に腫瘍が存在する場合は比較的予後が良好であるが,後上方に存在する場合は,眼窩や上咽頭,翼口蓋窩,咀嚼筋間隙,頭蓋底など,重要臓器の存在と切除安全域の問題により予後不良となる。腫瘍の進展方向と程度,手術侵襲によって様々な機能障害や顔面形態異常を生じるため,治療戦略は患者の体力や希望に合わせて慎重に検討する必要がある。副鼻腔炎といった発がんに関係する慢性炎症疾患の減少に伴い,本疾患は近年減少傾向にある。

    ▶診断のポイント

    悪臭を伴う血性鼻漏,鼻閉塞,硬口蓋・歯肉の腫脹,眼瞼周囲の腫脹,顔面や歯の疼痛,複視,眼球運動障害,流涙などの症状で発症する。画像検査で一側性の上顎洞陰影を認めた場合も本疾患を疑う。診断の決め手は,CTなどの画像検査によって骨破壊の有無などの確認によるが,最終的には生検が必要であり,鼻腔や口蓋に腫瘍が露出していない症例では,主として内視鏡下に上顎洞開放生検を行う必要がある。腫瘍が上顎洞内に限局している場合は症状に乏しく,早期診断が困難な疾患である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    上顎洞扁平上皮癌は,比較的化学放射線療法の感受性が高い。外科的切除を行った場合に生じる機能障害や,顔面形態異常の低減や切除安全域確保を目的として,古くより化学放射線療法と外科的切除を組み合わせた集学的治療が行われてきた。腫瘍の位置や浸潤範囲によっては事前に血管造影を施行し,メインの栄養血管を確認する。腫瘍への主たる栄養血管が顎動脈であると思われる場合は,浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)カテーテル留置術を行う。インジゴカルミンなどの色素を注入し,目的とする部位が青く染まることを確認し適切な位置でカテーテルを固定する。

    当科では基本的にはTPF〔ドセタキセル(DTX)+5-FU+シスプラチン(CDDP)〕化学放射線療法(chemoradiation therapy:CRT)を行うが,DTXと5-FUを全身投与し,CD DPはSTAカテーテルから投与する。STAカテーテル留置が困難な症例や,留置後まもなく脱落,閉塞してしまったような症例では,画像診断科の協力のもと透視下に鼠径部の大腿動脈経由(セルジンガー法)で顎動脈からCDDP投与を行う。腎機能を含めた全身状態が悪い症例や高齢でTPF化学療法に十分耐えられないと判断される症例に対しては,TPFの代わりにSTAカテーテルからの5-FU投与のみを行うこともある。また,腫瘍が頭蓋底方向に大きく進展しているような症例では,内頸動脈からの栄養も考慮しCDDPを全身投与にすることもある。

    かつては計画的に40Gy照射が終了した時点で手術を行っていた時期もあったが,最近は根治的にCRTを完遂する症例も増えてきており,治療を完遂した後に改めて評価し,残存が疑われる症例に限って手術治療を行うことで臓器,機能の温存を図ることが多い。

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