急性心筋炎とは,心筋に炎症があり,それに引き続き心筋細胞の壊死や変性が起こる疾患であり,その多くはウイルス感染が原因である。予後不良な理由は,劇症型心筋炎と呼ばれる急性期に急激に進行し,循環が保てなくなる病態を呈することと,慢性心筋炎と呼ばれ心機能の回復が思わしくなく炎症が持続する例や,拡張型心筋症に移行する例があること,の2点である。わが国の18歳未満の5年間における221例の急性心筋炎のコホートでは,性差はなく,平均6.5歳で乳児が多くを占め,生存率は75.6%であり,劇症型心筋炎に限ると生存率は48.6%であった。
急性心筋炎に特異的な症状はない。症状は心臓の機能不全により,ポンプ失調および不整脈による低心拍出とうっ血,そして心膜,胸膜刺激症状を主体とする。嘔吐などの消化器症状,咳嗽,喘鳴などの呼吸器症状が主体である。過剰心音の聴取(gallop rhythm),頻拍,リズム異常,肺野の湿性ラ音を見逃さない。心電図,心エコー図検査,心臓MRI,ウイルス関連検査や心内膜心筋生検も必要である。
急性心筋炎に特異的な治療はなく,基本は対症療法である。軽度の胸痛や期外収縮などの不整脈のみであれば,進行しないかどうか慎重な経過観察のみでよい。発症後数時間から数日で症状が劇的に進行する劇症型心筋炎には,注意が必要である。
免疫反応を標的にステロイドや免疫グロブリンが用いられることがあるが,予後改善効果は否定的な報告が多い。血行動態維持には,強心薬,抗不整脈薬,利尿薬,血管拡張薬を用いるが,それでも進行性に心臓機能不全が進行し,循環が維持できなければ,機械的補助を要する。
成人では,大動脈内バルーンポンピング(intra-aortic balloon pumping:IABP)が第一選択になることが多いが,小児ではIABPは体格から難しく,静脈-動脈膜型人工肺(veno-arterial extra-corporeal membranous oxygenation:V-A ECMO)が第一選択となる。長期管理には向かないため,心室補助循環(ventricular assist system:VAS)を要することもある。心肺蘇生を要した症例は予後不良との報告があり,ECMOの導入を躊躇ってはいけない。
わが国では現在,左心室補助循環(left VAS:LVAS)の使用は心臓移植を前提とした使用しか認められておらず,体格の小さな小児に対しては体外設置式システムであるExcor®しか使用できない。
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