著者の井口傑氏は、慶応義塾大学医学部を卒業後、同大学で整形外科を専攻し、長年「足」の治療にかかわってこられた日本を代表する「足」のスペシャリストである。教授退任後の現在は診療所で診察する機会も多い。本書は、まさしく井口氏の足の外科医としての経験と知見の結集と言える渾身の一冊である。
本書は三部で構成されている。第一部「足を診るということ」では、歩かせてみる、全身疾患を見逃さない、などプライマリ・ケア医が足を診る時の基本をおさえている。第二部「診療所での足の診断」では、診療所で足を診る時の心構えを説いている。中でも『患者の求めるものを知り、欲するものを与えることが一番である。(中略)目の前の患者が満足してくれれば勝ち、不満を残せば負けの真剣勝負である』や『診療所で成功する秘訣は「手当」である。文字通り、手を当てて触って、なで回してほしい』は奥義を極めた井口氏のいわば格言と言える。第三部「診療所で遭遇する足の疾患」では各疾患の診断と治療のコツと盲点が紹介されている。失敗談も隠さず親近感を覚え、とても読みやすい。
本書を読み終えまず感じたのは、「足」の診療に対するハードルを下げるために様々な工夫を随所に散りばめた井口氏の本書への思い入れと「足」への永遠の情熱である。『足を診るのに道具はいらない。舐めてみろとは言わないが五感を研ぎ澄まし「なぜか」「なぜか」と考え、見て触って押して動かしてみれば、おおよそ診断がつく』。井口氏らしい表現で、実に的を射ている。著者が「足」を愛し、世の中の「足」についての誤った認識を正し困った患者さんを減らしたい気持ちの表れと私は理解した。
勤務医、コメディカルはもちろん、足で困っている・足に興味がある一般の方にも肩肘をはらずに読破できるお薦めの一冊だ。電子版付で無料閲覧も可能で、タブレット端末を使えば日常診療でもすぐ役立つ。外来診療のお供に是非本書を!