【高いレベルのエビデンスはない。骨粗鬆症の薬物治療が必要であれば,定期的な画像検査などを行いながら慎重に進めるべき】
結論的には,ご質問に関する高いレベルのエビデンスはありません。しかし,頸椎後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL)はわが国で発見された疾患であり,わが国で多面的に調査や研究が行われてきました。その成果を中心に「頸椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン」が策定されていますので,これにしたがって考えたいと思います。
OPLLは頸椎と胸椎に多く腰椎には稀です。OPLL患者には同時に胸椎黄色靱帯,頸胸腰椎前縦靱帯,胸腰椎棘上靱帯など脊柱靱帯骨化がしばしば認められます。このような脊柱靱帯骨化は海外にもあり,強直性脊椎骨増殖症などの病名で知られています。OPLLでは脊柱靱帯骨化に加えて骨量が増加していると考えられ,基本的には骨粗鬆にはなり難いとされています。
しかし,骨粗鬆と脊柱靱帯骨化の併存が問題になる例はあります。骨粗鬆性椎体骨折と黄色靱帯骨化の併存による胸髄症です。ただ,少数例であり,外科治療の報告が散見される程度です。OPLL患者でも骨粗鬆症になる場合は考えられます。たとえば,後縦靱帯が肥厚・骨化し脊柱管が狭くなり頸髄症あるいは胸髄症が生じた場合,麻痺が重度になると,廃用による骨粗鬆が考えられます。また,前縦靱帯や棘上靱帯などの骨化が広範にわたり脊柱強直となり,椎体が骨粗鬆となることもあります。ただ,OPLLにおいて,骨粗鬆が臨床的に問題を引き起こす例はまだ少なく,この2つの視点からの臨床研究はありません。
骨代謝改善薬に視点を移します。骨代謝改善薬も多様になっています。代表のひとつであるビスホスホネート(BP)に関してはOPLLでの使用報告があります。ただし,骨粗鬆に対してではなく後縦靱帯骨化の抑制です。頸椎OPLLの後方除圧術後に骨化進展がみられます。エチドロン酸2Naによる進展予防効果を見た臨床研究です。これを3カ月投与と3カ月休薬を繰り返し2年間で効果を見た試験で,1000mgでは骨化進展が認められました。しかし,症例が少なく,その後の研究は続いていません。骨増殖傾向が強い状態に対してはBPが抑制的に働く可能性がありますが,OPLLに併発する骨粗鬆症に有効か,否かは不明です。BPはその後いくつかのものがあります。作用が異なる点があり,この結果を適応することは難しいと思います。
また,OPLLでCa代謝に異常があると指摘する研究もあります。経口Ca負荷試験に対してOPLL患者では反応が有意に低いとし,活性型ビタミンD3の相対的欠乏が靱帯骨化に影響しているとの報告があります。しかし,ビタミンD投与が靱帯骨化にどのような影響を与えるかは不明であり,慎重な判断が必要と言えます。副甲状腺機能低下症でOPLLの発生頻度が高いことも知られています。とはいえ,PTH製剤が実際に靱帯骨化にどのように作用するかは不明です。
靱帯骨化は急速に進むものではありません。骨粗鬆症の薬物治療が必要であれば,定期的な画像検査などを行いながら,慎重に進めることが重要と思います。
【参考】
▶ 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 他, 編:頸椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン2011 改訂第2版. 日本整形外科学会, 他, 監修. 南江堂, 2011.
【回答者】
米延策雄 大阪行岡医療大学特任教授