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後縦靱帯骨化症で骨粗鬆症を合併した際の骨代謝改善薬投与の可否

No.5004 (2020年03月21日発行) P.53

米延策雄 (大阪行岡医療大学特任教授)

登録日: 2020-03-23

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指定難病である後縦靱帯骨化症は後縦靱帯の骨化により脊椎管狭窄が生じます。骨粗鬆症を合併した場合,骨代謝改善薬投与の可否についてご教示下さい。(兵庫県 T)


【回答】

【高いレベルのエビデンスはない。骨粗鬆症の薬物治療が必要であれば,定期的な画像検査などを行いながら慎重に進めるべき】

結論的には,ご質問に関する高いレベルのエビデンスはありません。しかし,頸椎後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL)はわが国で発見された疾患であり,わが国で多面的に調査や研究が行われてきました。その成果を中心に「頸椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン」が策定されていますので,これにしたがって考えたいと思います。

OPLLは頸椎と胸椎に多く腰椎には稀です。OPLL患者には同時に胸椎黄色靱帯,頸胸腰椎前縦靱帯,胸腰椎棘上靱帯など脊柱靱帯骨化がしばしば認められます。このような脊柱靱帯骨化は海外にもあり,強直性脊椎骨増殖症などの病名で知られています。OPLLでは脊柱靱帯骨化に加えて骨量が増加していると考えられ,基本的には骨粗鬆にはなり難いとされています。

しかし,骨粗鬆と脊柱靱帯骨化の併存が問題になる例はあります。骨粗鬆性椎体骨折と黄色靱帯骨化の併存による胸髄症です。ただ,少数例であり,外科治療の報告が散見される程度です。OPLL患者でも骨粗鬆症になる場合は考えられます。たとえば,後縦靱帯が肥厚・骨化し脊柱管が狭くなり頸髄症あるいは胸髄症が生じた場合,麻痺が重度になると,廃用による骨粗鬆が考えられます。また,前縦靱帯や棘上靱帯などの骨化が広範にわたり脊柱強直となり,椎体が骨粗鬆となることもあります。ただ,OPLLにおいて,骨粗鬆が臨床的に問題を引き起こす例はまだ少なく,この2つの視点からの臨床研究はありません。

骨代謝改善薬に視点を移します。骨代謝改善薬も多様になっています。代表のひとつであるビスホスホネート(BP)に関してはOPLLでの使用報告があります。ただし,骨粗鬆に対してではなく後縦靱帯骨化の抑制です。頸椎OPLLの後方除圧術後に骨化進展がみられます。エチドロン酸2Naによる進展予防効果を見た臨床研究です。これを3カ月投与と3カ月休薬を繰り返し2年間で効果を見た試験で,1000mgでは骨化進展が認められました。しかし,症例が少なく,その後の研究は続いていません。骨増殖傾向が強い状態に対してはBPが抑制的に働く可能性がありますが,OPLLに併発する骨粗鬆症に有効か,否かは不明です。BPはその後いくつかのものがあります。作用が異なる点があり,この結果を適応することは難しいと思います。

また,OPLLでCa代謝に異常があると指摘する研究もあります。経口Ca負荷試験に対してOPLL患者では反応が有意に低いとし,活性型ビタミンD3の相対的欠乏が靱帯骨化に影響しているとの報告があります。しかし,ビタミンD投与が靱帯骨化にどのような影響を与えるかは不明であり,慎重な判断が必要と言えます。副甲状腺機能低下症でOPLLの発生頻度が高いことも知られています。とはいえ,PTH製剤が実際に靱帯骨化にどのように作用するかは不明です。

靱帯骨化は急速に進むものではありません。骨粗鬆症の薬物治療が必要であれば,定期的な画像検査などを行いながら,慎重に進めることが重要と思います。

【参考】

▶ 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 他, 編:頸椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン2011 改訂第2版. 日本整形外科学会, 他, 監修. 南江堂, 2011.

【回答者】

米延策雄 大阪行岡医療大学特任教授

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