肝細胞癌は,肝原発悪性腫瘍の95%以上を占め,B型あるいはC型慢性肝炎を背景に発生することが多い。近年はウイルス肝炎を合併しない非B非C型肝細胞癌が増加しており,その発生には肥満,糖尿病,脂肪肝,飲酒などの生活習慣関連因子が濃厚に関与している。多くは肝硬変かそれに準じた肝線維化を伴う症例に発生し,これら高危険群に対する超音波と腫瘍マーカーを用いたサーベイランスが行われている。
確定診断は,ダイナミックCTあるいはダイナミックMRIを用いて行われる。造影剤注入後の早期相で腫瘍が周囲肝実質よりも強く造影され,後期相でそれらが消失し,周囲肝組織よりも低信号に描出される場合は,画像診断のみで肝細胞癌と確定し,治療方針決定に進んでよい。非典型的な画像所見を呈する場合は,肝特異的造影剤であるGd-EOB-DTPAを用いた造影MRIが診断に有用である。腫瘍マーカーとして,α-フェトプロテイン(AFP),PIVKA-Ⅱ,AFPレクチン分画の3種類が用いられる。
肝予備能(Child-Pugh分類),肝外転移の有無,脈管侵襲の有無,腫瘍数,腫瘍径に基づいて治療選択が行われる。日本肝臓学会から肝癌診療ガイドライン治療アルゴリズムが発表されており,原則そのアルゴリズムに従って治療方針が決定される1)。
肝切除は,脈管侵襲・肝外転移がなく,単発で肝機能が保たれている(Child-Pugh分類A)場合に最もよい適応となる。脈管侵襲を有する場合でも,肝切除の適応となる場合がある。
ラジオ波焼灼療法に代表される焼灼療法(アブレーション)は,脈管侵襲・肝外転移がなく,Child-Pugh分類AあるいはBで主腫瘍最大径3cm以下,病変数3個以下の症例が適応となる。主腫瘍が3cm以下で腫瘍数2~3個の場合は,第一選択となりうる。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)は,脈管侵襲・肝外転移がなく,Child-Pugh分類AまたはBの肝機能で腫瘍数が4個以上の場合に第一選択となる。また,腫瘍数が1~3個であっても肝切除や焼灼療法の適応とならない症例では,第一選択となりうる。
薬物療法は,Child-Pugh分類Aの肝機能で脈管侵襲や肝外転移を伴う場合に適応となる。また,脈管侵襲や肝外転移を伴わない場合でも腫瘍数4個以上の症例では,切除やTACEに次ぐ選択肢となる。
肝移植は,Child-Pugh分類Cの肝機能で単発5cm以下あるいは腫瘍数2~3個で3cm以下,かつ脈管侵襲や肝外転移を伴わない65歳以下の症例に適応される。最近,腫瘍径と個数に関して,腫瘍径5cm以下,腫瘍数5個以下かつAFP 500ng/mL以下への適応拡大が認められた。以上の腫瘍条件を満たさないChild-Pugh分類Cの症例では,緩和ケアが推奨される。
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