食行動の異常や体重を過剰にコントロールする行動,体型に対する過度のこだわりを認め,多くが身体的健康や心理社会的機能に支障をきたす障害である。摂食障害の大半は思春期~成人期早期より症状が認められるが,成人発症例も少なからずある。神経性やせ症の死亡率は精神疾患の中で最も高い。
摂取エネルギーを制限することにより,低体重〔体格指数(body mass index:BMI)18.5未満〕を維持しようとする。病識は低く,体重増加に対する強い恐怖を持ち,低体重や食事制限を隠そうとすることがある。食事への極端なこだわりを持つことが多く,診断にあたっては,食事内容や食事習慣に関して丁寧に聴き取り,家族からも情報を得るとよい。児童思春期症例では成長曲線をつけることが有用である。自尊心が低く,完全主義的な思考を持ち,食欲や食事習慣を完全にコントロールしようとする傾向が強い。過剰な運動を繰り返す者もいる。児童思春期症例では,自分の感情を十分に言語化できず,食事制限の意図を説明できないことがある。
ANは食事制限のみの「摂食制限型」と,自己誘発性嘔吐や利尿薬・下剤などを用いる「過食・排出型」とがある。無月経は,「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」からは診断上必須項目ではない。
繰り返される過食エピソード,体重・体型への過度なこだわりを認めるが,低体重を伴わない。初めはANと同様,食事制限と体重減少を認めるが,その後過食を繰り返す。過食は自分で制御しにくいと感じており,過食にひき続き,自己誘発性嘔吐や利尿薬・下剤の利用などの代償行為を認める。ANに比べると発症年齢は高く,多くは思春期後期から成人期前期に始まる。
過食エピソードを繰り返すが,絶食や嘔吐などの代償行為を認めない。過食は自己制御しにくいと感じており,通常量よりも明らかに多い量を摂取し,著しい苦痛感,自己嫌悪,罪悪感などを伴う。ANやBNよりも年齢層は高く,BED罹患者の約1/3は男性である。治療は体重減少よりも過食衝動を抑制することに重点を置く。
食行動の障害を伴うが,他の診断名に合致しないもの。多くが20歳代の女性である。
食行動障害,特にANでは身体合併症が多く,摂食障害の死因の約半数は身体合併症に伴うものである。徐脈,低血圧,不整脈などの心血管系の障害,骨髄抑制による貧血,免疫系の異常,電解質の異常,骨密度の減少,脳萎縮,浮腫,無月経などが起こりうる。繰り返される嘔吐によって,電解質異常,唾液腺腫,口腔内の異常などを認めうる。
種々の精神疾患の併存を認め,不安障害(強迫性障害や社会不安障害),気分障害(うつ病,希死念慮),衝動行為(自傷行為,物質乱用,万引きなど)を伴うことがある。体重減少が進むと半飢餓状態が認知面や感情へも影響を及ぼし,ANが進行・遷延化しやすい。
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