狭窄性腱鞘炎は,腱と靱帯性腱鞘との間に炎症が起こった状態で,腱の滑走が円滑にできなくなり,疼痛と腫脹を呈する疾患である。更年期や妊娠出産期の女性,仕事やスポーツで手をよく使う人に多い。糖尿病,リウマチ,透析患者では複数指に生じることがある。母指,中指に多く,環指,小指,示指にもみられる。
屈筋腱の狭窄性腱鞘炎は,手指中手指節(MP)関節掌側部で生じることが多い。手指MP関節掌側部に疼痛と腫脹を呈する。同部位に圧痛があり,肥厚した腱鞘(A1 pulley)を触知することがある。小さな腫瘤を触れる場合は腱鞘ガングリオンであることが多い。手指の屈伸で引っ掛かりが生じ,ばね現象(弾発現象)を認めるようになる。進行すると,屈曲位からの自動伸展が困難となり,健側手を用いて他動的に伸ばさないと伸展できなくなる。さらに進行すると,手指近位指節間(PIP)関節が屈曲拘縮を起こしてくる。
ドケルバン病は,短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が通過する橈骨茎状突起部にある第一コンパートメントで生じる腱鞘炎である。第一コンパートメントに圧痛と腫脹があり,母指の動きで疼痛が誘発される。
単純X線では特に異常を認めない。超音波検査で,腱鞘ガングリオンがあれば境界明瞭な低エコー領域として認められる。ドケルバン病では,Eichhoffテスト(母指を手のひらに握り込んで手関節を尺屈するテスト)などで疼痛が誘発される。圧痛の部位や単純X線像から,母指手根中手(CM)関節症を除外することが必要である。
軽症例では,炎症を軽減させることを基本方針とする。腱と靱帯性腱鞘との間に炎症が起こったために腱の円滑な滑走が障害されるのが病態であるので,炎症を惹起している原因を除去し,炎症を鎮静化させる治療を考える。まず,手の酷使を避ける。ドケルバン病では,シーネや装具による母指と手関節の外固定を試みる。妊娠中や授乳中に生じたドケルバン病では,これが唯一の治療法となることもある。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の外用や内服で治療する。治療抵抗性であれば,副腎皮質ステロイドを腱鞘内に注射する。
重症例では,NSAIDsの外用や内服による薬物治療に抵抗性を示すことが多い。この場合,ステロイドを腱鞘内に注射する。注射は有効率が高く,3カ月以上無症状になることが多い。それでも改善しない場合や再発を繰り返す場合は,局所麻酔下に腱鞘切開術を行う。
職業やスポーツで手をよく使う人では,局所を安静にする指導が必要になる。糖尿病,リウマチ患者では,疾患を良好にコントロールする必要がある。ステロイドの腱鞘内注射は,感染性腱鞘炎に使用してはならない。非感染性のものに限る。早期に鎮痛効果を獲得したい場合には,注射は有効である。
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