変形性肘関節症は,コホート研究の結果からはX線学的な罹患率は25~55%と意外と高いが,有症状の罹患率は低く,治療を求めて受診する患者は少ない。そのほとんどは外科的治療までを希望しないが,もし手術が必要な場合にどのように対応すべきかの知識が必要な疾患である。また,尺骨神経症状などの随伴する症状についての知識も必要である。
肘関節痛と可動域制限があって,X線で変性変化があれば診断は容易である。尺骨神経症状が主訴の場合に,本疾患が原因のことがあるので注意が必要である。
症状は疼痛が主訴のことが多い。他の変形性関節症と同様,NSAIDsの外用薬や内服薬から開始し,場合によっては温熱治療などの物理療法を行ってもよい。サポーターはあまり医学的な意義はなく,保温や心理的な効果をねらう。炎症性の痛みが強い場合は,ケナコルトⓇ(トリアムシノロンアセトニド)の関節内注射が有効であるが,効果持続期間は様々である。
本疾患は可動域制限を伴うことがきわめて多く,またその程度も比較的強い。特に伸展制限を生じやすいが,日常生活で支障が出やすいのは屈曲制限である。これを保存的治療だけで改善させることは難しいが,少なくとも可動域制限を患者本人に認識させ,可動域維持のための屈伸,回内外訓練を常日頃から行うよう指導する。
以上の保存的治療が無効で患者が希望すれば,外科的治療を考慮する。骨棘切除や滑膜切除術などでも一定の効果が得られ,これを鏡視下でできれば術後の回復も早い。可動域制限の改善のための手術は,術前の検討がきわめて重要である。解剖学的にどの部分を切除ないし解離すべきかよく検討し,術中も手技ごとに可動域の回復を確認しながら行う。当然ながら,周囲の神経血管束との関係はよく把握して十分な注意を払う。伸展制限が強い場合は,歴史的なOuterbridge-柏木法の変法も考慮する。いずれにしても,術後のリハビリテーションがきわめて重要で,術後に積極的かつ長期間の施行を考慮すべきである。ある程度高齢であれば,人工肘関節全置換術が有効でリハビリテーションも容易である。
本症は主訴が尺骨神経症状であることもめずらしくなく,その場合は肘部管症候群の治療に準じて行う。回復の難しい手内筋の筋萎縮が出る前に手術を勧める必要があるが,本症が原因の肘部管症候群の場合,初診時に既に重度の尺骨神経麻痺を生じていることがある。手術は尺骨神経の前方移行術を行うが,同時に肘関節の関節枝を切離するため,関節痛の軽減も期待できる。
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