▶日本で発生する交通事故の負傷部位の半数は頸部であり,事故後の頸部痛は日常診療でよく遭遇する主訴です。頸部がむちのようにしなって受傷することから“むち打ち損傷”という呼称も広く知られていますが,医学用語では「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」と診断するのが一般的です。
▶診断において最も重要なことは,脊髄損傷,頸椎骨折,脱臼を除外することです。高齢者では頸部の脊柱管が狭くなっており,頸部を後屈するような軽微な外傷で脊髄損傷を起こすことがあります。上肢の運動障害や感覚障害(アロディニア:触れるだけでビリビリした感覚が誘発される)を認めた場合には,頸髄の脊髄損傷(中心性脊髄損傷を含む)を疑いましょう。
▶また,痛みにより頸部の可動域制限がある場合には,頸椎骨折や脱臼の精査を行うことを推奨します。左右の側屈が45°以下や回旋運動困難であれば,X線検査を施行しましょう(ただし,交通事故による受傷の客観的記録を残すことは重要であり,頸椎骨折や脱臼を疑っていなくてもX線検査を行うことも検討しましょう)。