腰椎すべり症は,上位椎体が下位椎体に対して前方に転位している状態であり,大きくわけて,脊椎の関節突起間部の連続性が断たれた分離すべり症と,加齢に伴う腰椎の変性の進行とともに発症する変性すべり症がある。腰椎変性すべり症は第4腰椎に好発し,50歳以上の女性に多く,腰痛が主訴であることが多いが,腰部脊柱管狭窄症を伴う場合には,下肢のしびれ感や疼痛などが生じることもある。
腰椎変性すべり症は単純X線側面像で診断できる。前屈時の単純X線側面像での罹患椎間の後方開大は,当該椎間の不安定性を示す。X線上の評価としては,Meyerding分類が用いられることが多く,下位椎体上縁の前後を4等分して,当該椎体の後下縁がどこに位置するかで,すべりの程度を4段階(Ⅰ~Ⅳ度)で表す。Ⅰ度が最も軽度であり,数字が大きくなるほどすべりが大きいことを示す。腰部脊柱管狭窄症を伴っているかどうかは,下肢のしびれ感,疼痛,間欠跛行などの臨床症状とともに,腰椎単純MRIなどで診断される。
主訴が腰痛のみの場合は,腰痛症に準じた保存療法が中心となる。保存療法としては,薬物療法,日常生活や腰痛体操の指導,コルセット着用などが挙げられる。薬物療法としては,アセトアミノフェン,非ステロイド性抗炎症薬,筋弛緩薬,弱オピオイド,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などが選択肢として挙げられる。
下肢症状を伴う場合は,腰椎単純MRIなどで脊柱管狭窄の有無を確認する必要があり,脊柱管狭窄が認められた場合,腰部脊柱管狭窄症に準じた治療が行われる。薬物療法としては,リマプロストやカルシウムチャネルα2δ遮断薬も選択肢として加えられる。薬物療法以外では,硬膜外ブロックや神経根ブロックなどの注射療法も考慮される。
これらの保存療法に対して抵抗性で,日常生活動作の制限が著しい場合は手術療法が検討される。症状が進行すると,下肢の知覚鈍麻や筋力低下,膀胱直腸障害が生じることもあり,これらの症状が長期化すると,不可逆性となることもあるので注意が必要である。手術は,単純X線ですべりの程度がMeyerding分類でⅡ度以上や,不安定性が認められる場合には,除圧術のほかに固定術も加えられることが多い。
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