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幼虫移行症[私の治療]

No.5019 (2020年07月04日発行) P.38

中村(内山)ふくみ (都立墨東病院感染症科部長)

登録日: 2020-07-02

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  • 幼虫移行症とは,ヒト以外の動物を終宿主とする寄生虫がヒト体内に侵入し,幼虫のままでヒト体内を移行して様々な病害を引き起こす疾患をいう。幼虫移行症の原因寄生虫には以下のようなものがある。

    線虫類:アニサキス,イヌ回虫,ネコ回虫,顎口虫,旋尾線虫,イヌ糸状虫,広東住血線虫,動物由来の鉤虫(イヌ鉤虫,ブラジル鉤虫など)

    吸虫類:宮崎肺吸虫,肝蛭

    条虫類:エキノコックス(単包虫,多包虫),マンソン孤虫,有鉤囊虫

    本稿では他稿との重複を除き,臨床現場で遭遇すると思われる動物由来の鉤虫感染症,肝蛭症,マンソン孤虫症,有鉤囊虫症について記載する。

    ▶診断のポイント

    【動物由来の鉤虫感染症】

    症状:皮膚の線状爬行疹(creeping eruption)が主症状である。土壌に存在するイヌ鉤虫,ブラジル鉤虫の感染幼虫が経皮的に感染する1)。患者の多くは東南アジアや中南米で感染している。

    診断:皮膚生検を行い,組織に虫体断面がみられれば,形態的特徴から診断できる。虫体が得られなかった場合も表皮内に寄生虫が移動した痕跡(虫道,worm tunnel)がみられ,その内部に好酸球の浸潤や脱顆粒像,フィブリンの析出が観察される1)。末梢血好酸球増多はほとんど伴わず,免疫診断は有用ではない1)

    【肝蛭症】

    症状:国内外で感染するリスクがある。セリ,クレソンなど水辺に生息する植物に付着した感染幼虫の経口摂取により感染する。幼虫は腸管から腹腔へ移行し,さらに肝臓表面から肝実質に侵入し,胆管内で成虫となる。肝実質移行期(急性期)は発熱,心窩部痛,右季肋部痛が主症状で,虫体が胆管内に到達する時期(慢性期)には,心窩部痛・右季肋部痛に加え黄疸が出現する。

    診断:血液検査で著明な末梢血好酸球増多がみられ,腹部画像検査で急性期は肝膿瘍としてとらえられる。慢性期では胆膵内視鏡(ERCP)で胆管内に虫体の欠損像がみられる。慢性期になれば十二指腸液や便からの虫卵検出により診断されることもあるが,病期を問わず免疫診断が有用である。

    【マンソン孤虫症】

    症状:マンソン孤虫が寄生したトリ,カエル,ヘビの筋肉を生で摂取することで感染する。皮膚の移動性病変(腫瘤,紅斑,硬結)を主症状とする。稀に胸腔や中枢神経など思いがけない部位へ迷入することもある。

    診断:皮膚生検により組織に虫体断面がみられれば形態的特徴から診断できる。動物由来の鉤虫に比してサイズが大きく,切開創や新鮮生検標本内から生きた虫体が肉眼で確認できることもある。末梢血好酸球増多がみられ,生検ができない場合や異所性迷入の場合,免疫診断で診断が可能である。

    【有鉤囊虫症】

    症状:有鉤条虫卵で汚染された水や食品を摂取することで感染する。小腸上部で孵化した幼虫は腸管壁に侵入し,血行性に全身に散布され,囊虫(Cysticercus cellulosae)を形成する。囊虫は中枢神経に親和性が高く頭痛,痙攣,巣症状が出現する。皮下・筋肉の囊虫は移動性のない腫瘤としてみられる。成虫(有鉤条虫)の腸管寄生があると,自家感染により播種性有鉤囊虫症を起こすことがある。

    診断:流行地滞在歴,症状,画像所見と免疫診断を組み合わせて診断する。生検可能な部位で組織に虫体断面がみられれば,形態的特徴から診断できる。

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