【非居住者の場合,国内源泉所得の内容により経費になるかならないか異なる】
所得税法は,個人の課税について住所等を基準に居住者と非居住者に区分し,課税する所得の範囲を定めています。居住者とは日本国内に住所を有し,または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を言います。なお,その者が日本の国籍を有していて,国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業および資産の有無等の状況に照らし,その者が国内において継続して1年以上居住すると推測するに足りる事実がある場合は,国内に住所を有する者と推定されます。それに対して非居住者とは居住者以外の個人を言います。
質問者は,クリニックを売却して海外に住むということですので,非居住者に該当すると言えます。非居住者に該当すると,国内源泉所得のみが課税対象となります。外来診療を手伝うことにより得る国内源泉所得は,①国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業でその人的役務の提供に係る対価,②給料・賞与またはこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち,国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの,のいずれかに該当します。ただし①に該当する場合も②に該当する場合も,支払いをする際に20.42%(復興特別所得税を含む)の所得税が源泉徴収されます。なお,租税条約により,短期滞在者(原則183日以内)は免税になる場合もあります。
非居住者に該当すると,月に1週間ほど午前中外来診療を手伝う行為が,国内源泉所得の①に該当するのか②に該当するのかにより,経費になるかならないかの違いが出てきます。
外来診療を手伝う行為が①に該当する場合,原則は所得税法が分類する各種所得のうちの雑所得となり,雑所得の金額は,総収入金額から必要経費を控除して計算します。
必要経費は,「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(略)の額」としています。帰国して個人的な国内旅行等はしないということですので,海外から国内に移動するための交通費や宿泊代は,その所得を得るための経費として差し支えないと考えます。その場合の所得控除は,雑損控除(国内で生じたもの),寄附金控除(国内で行ったもの),そして基礎控除の3つに限定されています。
それに対して②に該当する場合は,給料・賞与等として人的役務の提供に対する報酬として支払いを受けるべき国内源泉所得の金額が分離課税に係る所得税の課税標準となりますので,帰国のための交通費や宿泊費は,経費にすることはできません。
【参考】
▶ 所得税法2条1項3号, 5号, 同161条, 164条, 165条 , 166条, 169条, 170条.
▶ 所得税法施行令14条, 15条, 282条.
▶ 所得税基本通達164-1.
【回答者】
益子良一 税理士法人コンフィアンス代表社員税理士/ 専修大学法学部講師