肝吸虫症は,肝吸虫(Clonorchis sinensis)が胆管に寄生して起こる疾患である。ヒトには感染幼虫(メタセルカリア)の寄生する淡水魚を,生または不完全調理で喫食することで感染する。魚類への感染には特定の淡水産巻貝を必要とし,本症の発生はこの中間宿主となる貝(わが国ではマメタニシ)の分布域に限られる。
日本での症例発生の報告は現在ではほとんどないが,韓国・中国などの淡水魚の生食嗜好がある地域では,現在も発生がみられる。タイ・ラオス・カンボジア・ベトナムなどのメコン川流域には,近縁種のタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)が分布し,現在でも感染者は多い。この地域への旅行者では,淡水魚の生食があれば感染する可能性があり,輸入感染症として注意する必要がある。
胆管癌の原因となることが知られている(International Agency for Research on Cancer,WHO)。
自覚症状に乏しい。流行地の住民は頻回に感染機会があり,肝内胆管系の多数箇所に寄生して胆汁うっ滞から肝硬変に至ることが多いが,旅行者においては無症状あるいは軽微な肝機能異常にとどまることもある。流行地での生活歴,淡水魚の摂食歴などを確認することが重要である。
便中の虫卵の確認(集卵法を用いることが望ましい)ができれば確定診断となる。免疫血清学的検査,画像検査による肝臓および胆管系の異常の検索も必要である。
自覚・他覚所見に乏しい感染症であるが,長期に寄生が継続すると胆管癌の発症も懸念されるため,流行地の渡航歴,淡水魚の摂食歴がある場合は,便虫卵検査,血清抗体の存在,胆管狭窄や拡張の異常の有無を積極的に検索する。感染が疑われる場合は,プラジカンテルによる薬物治療を行う。
代替薬はなく,今日,プラジカンテルが唯一の駆虫薬である。薬剤耐性は報告されていない。妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい。授乳中の女性は,服用後72時間以内の授乳を控える。
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