厚生労働省は8月28日、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」を5カ月ぶりに再開した。医師の時間外労働規制のうち、地域医療の確保を目的としたB水準は、自院での時間外労働が960時間を超える医師がいる医療機関を対象に指定するが、厚労省研究班の調査で、大学病院での時間外労働は960時間以内であっても、兼務先と通算すると960時間を超える医師が多くいることが判明。主たる勤務先がB水準の指定を受けていない場合、これまでの考え方では労働時間管理や追加的健康確保措置の履行手続きが煩雑になり、大学病院から関連病院への医師派遣に影響が出る可能性もあることから、改めて地域の医療提供体制の見直しと一体的に議論を進めていく必要性が確認された。
2024年度に導入される医師の時間外労働規制では、年960時間を上限とする原則基準(A水準)のほかに、地域医療で重要な役割を担う医療機関や研修医を対象に年1860時間までの時間外労働を容認するB、C基準を設定。B、C水準適用医療機関には、960時間超の時間外労働を行う医師に対して、連続勤務時間制限や勤務間インターバル、代償休息の確保といった追加的健康確保措置を履行することが義務として課される。
検討会に報告された「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」によると、調査対象の2大学6診療科の医師の時間外労働は、大学病院の労働時間だけでみた場合は宿直・日直中の待機時間を含めても全員A水準の範囲内に収まっていたが、兼務先と通算するとA水準を超過する医師が全体の約3割を占めていた。
このため、研究班の裵英洙氏(慶應義塾大学健康マネジメント研究科特任教授)は、「大学単独でできることと、できないことがあり、地域を面で見ながら大学を巻き込んでいく、地域医療を視野に入れた労働時間管理が必要だ」と問題提起。山本修一構成員(千葉大学副学長・千葉大学大学院医学研究院眼科学教授)もこれに賛同し、「大学医局の医師派遣能力が低下し、常勤医を引き上げて非常勤医を出しているが、非常勤医まで引き上げることになれば医療提供体制が壊れる。地域の医療提供体制の見直しも併せて考えなければならない」と指摘した。
この日の検討会には、「医師労働時間短縮計画」の策定ガイドライン案も提示された。計画策定にあたっての基本的考え方のほか、記載内容を必須記載事項(労働時間数、労務管理・健康管理、策定プロセスなど)と任意記載事項(タスク・シフト/シェア、医師の業務の見直しなど)に分けて整理したが、策定義務対象医療機関に関する記載はペンディング扱いとした。主たる勤務先での時間外労働がA水準内でも、兼務先との通算では超過する医師が多いとする前出の調査結果を受けたもの。これまでは自院での時間外労働が960時間超の医師がいる医療機関に計画の策定を求める考えだったが、兼業先との通算で960時間超となる医師がいる場合も策定対象とする方向での見直しを検討する。