聴神経腫瘍は第Ⅷ脳神経に発生する良性の神経原性腫瘍で,大部分は前庭神経を起源とする。一側の難聴と耳鳴,めまいを初発症状として,腫瘍の増大とともに近接する顔面神経や三叉神経の麻痺を生じ,放置すると水頭症や脳幹圧迫をきたし,死に至る疾患である。
早期診断のポイントは,一側の難聴,耳鳴を主訴とする症例に対し本疾患を疑うことである。たとえ諸検査が正常範囲であっても,以下のような症例では聴神経腫瘍の可能性がある。また,めまい症状は回転性よりは浮動感のことが多い。
一側の感音難聴あるいは耳鳴が主訴,難聴が正常範囲(平均純音聴力20dB以内)でも左右差がある,感音難聴に比較し語音明瞭度が悪い,聴性脳幹反応(ABR)に左右差がある,カロリックテストが正常範囲でも左右差がある,谷型あるいはdip型の突発難聴,繰り返す突発難聴,難聴が進行する突発難聴,一側の内耳道は拡大あるいは形状に左右差がある。
聴神経腫瘍が診断された場合には,①MRIと聴力検査による経過観察(wait and scan),②手術治療,③放射線治療,の3つの選択肢がある。いずれも利点と欠点があり,その選択には年齢や全身状態,腫瘍の大きさ,聴力,患者の希望などを考慮する必要がある。
wait and scan:聴神経腫瘍は良性腫瘍で,増大速度は年間約2mm程度であることから1),MRIと聴力検査でしばらく経過を観察し,腫瘍の増大や難聴の進行がみられた場合に手術あるいは放射線治療を行う2)。腫瘍が増大しなければ手術や放射線治療を回避できる利点があるが,腫瘍の増大がない場合でも難聴が突然発症したり進行したりすることがあり,聴力保存手術の時期を逸するリスクがある。
手術治療:経迷路法,経中頭蓋窩法,retrosigmoid法がある。経迷路法は,迷路を破壊するため聴力は保存できないが,顔面神経を温存しやすい利点がある。経中頭蓋窩法は,内耳を破壊しないため聴力保存が可能であるが,術野が狭く小腫瘍(1cm以下)に限定される。retrosigmoid法は,術視野が広く大腫瘍に適している。聴力保存も可能であるが,内耳道内の腫瘍の摘出には限界がある。
放射線治療:放射線治療にはガンマナイフ,定位放射線照射,サイバーナイフ等がある。腫瘍の増大抑制効果は70~90%で,腫瘍が縮小することもあるが消失することはない。ただし,3.5cmを超える巨大腫瘍や囊胞化した腫瘍では,効果が限定される。頻度は少ないが,水頭症や腫瘍のがん化などの重篤な合併症がある。
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