トキソカラ症(toxocariasis)は,イヌ・ネコ回虫の幼虫包蔵卵あるいは幼虫を摂取することによって生じる感染症である。熱帯,温帯を問わず世界中に認められる。感染経路は,ペットとの接触による被毛付着虫卵の取り込みや,イヌやネコの便とともに排泄された虫卵で汚染された砂場や野菜類と考えられる。また,ウシやニワトリ等が幼虫包蔵卵を摂取して待機宿主となり,それらの生レバーや不完全加熱肉を摂取することにより,幼虫がヒトに感染する経路が考えられる。現在,ウシやブタ等の生レバーなどは飲食店では提供が禁止されているが,いわゆるジビエ料理といった野生動物の生レバーや生肉摂取が一部で流行しており,これによる感染も考える必要がある。
病態としては,幼虫が固有宿主ではないヒトに感染するため幼虫移行症の形をとり,主として内臓移行症が多い。寄生部位は肝臓や眼球で,小児に好発する。肺に移行した場合は咳や喘息の呼吸器症状が,肝臓に移行した場合には発熱などが,他覚症状としては肝腫脹,好酸球増加などがみられる。眼寄生の場合は,片側の網膜腫瘍と鑑別が必要となる。
診断にはイヌ回虫抗原と患者血清を用いたELISA法などが用いられる。血清診断については,一次スクリーニング検査はSRL社が,またELISA等は国立感染症研究所寄生動物部,宮崎大学医学部寄生虫学教室などが行っている。
ベンズイミダゾール系薬剤が有効で,ジエチルカルバマジン,イベルメクチンも可能性がある。治療によって虫体が破壊され,アレルギー反応が発生することがある。その場合はステロイドの投与を行う。
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