むち打ち損傷では,軽微な外傷にもかかわらず長引く疼痛性障害に悩まされることがある。起立性頭痛などがない場合は,可及的に安静・不動化を排除して早期に社会復帰を促すことで,慢性疼痛に移行することを避けるべきである。
外傷性頸部症候群は,衝撃,加速度など介達外力によって様々な症状をもたらす症候群であり一様でない。疼痛部位や症状によって治療方法を選択することが重要である。多くの場合,骨折も脱臼もしていない外傷性頸部症候群は,けがの中でも軽症の部類に入る。しかしその一方で,痛みやしびれなどの症状がなかなか改善されず,難治化・慢性化するケースも知られている。それを予防するためにも,「早期に適切な治療を受ける」だけでなく,「セルフケア」もとても重要である。痛みの慢性化には「ストレス」と「不動化」が関係している。ストレスとは,精神と身体にかかった負荷のこと,一方の不動化とは,長時間にわたって同じ姿勢を続けることを指す。当然ながら交通事故に遭えば,それ自体がストレスになるが,不動化は自身の取り組み次第で予防が可能である。
そして,この不動化に陥らないために行いたいのが,セルフケアである。前屈位の姿勢を続けないこと,および全身運動が重要である。ウォーキングや軽いストレッチなどは,電気治療や牽引による物理療法より効果が高いというエビデンスも出ている。
症状より病態を整理する。
①頸椎捻挫型:首痛や張り,肩こりなど。
②神経根型:首と腕,肩甲骨の痛みとしびれ。しびれは首を動かすと強まり,手や指の感覚が鈍くなる。
③脊髄症型:症状は四肢に及び,反射が亢進する。
④バレー・リュー型:首痛,頭痛,めまい,吐き気,不安感,不眠など自律神経症状が主である。
⑤胸郭出口症候群型:首痛,片方の腕にしびれと冷感。
⑥脳脊髄液減少症型:起立性頭痛(横になると楽になる),微熱,めまい,吐き気,集中力低下,記憶力障害など。
事故状況と,疼痛部位,程度の記録は重要である。起立性頭痛,めまいなど自律神経症状の有無は問診する必要がある。疼痛が遷延化し複数診療機関での加療となった場合に,外傷との因果関係を証明するための重要な証拠となる。
検査の組み立て方としては,頸部に運動時痛,四肢神経症状がある場合は,脊椎帯骨化症など頸椎基礎疾患の有無をみるために頸椎X線像(正面,側面,側面前後屈)を撮影する。経時的に症状の改善を認めない場合は頸椎MRI,頭痛・起立性頭痛が存在する場合は脳脊髄液減少症を疑い,脳の造影MRIが必要となる。
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