患側が片側か両側かにより,臨床的な取り扱いが大きく異なる。内訳は,片側性が9割程度で圧倒的に多い。内視鏡検査を基本として診断し,原因精査の上で,患者のQOLの向上をめざした治療を行う。
診断は喉頭内視鏡検査によるが,片側性の場合,声帯の部分麻痺や喉頭斜位の鑑別が必要なことがある。その際には,前者では喉頭筋電図を,後者では頸部の回旋による内視鏡所見の変化や頸部CTなどの画像診断を補助的に用いて確定診断に至る。
症状・主訴と原因の疫学を念頭に治療方針を計画する。
主訴のほとんど,9割程度は気息性嗄声である。誤嚥や嚥下困難が主訴あるいは嗄声に伴う場合もあるが,反回神経麻痺による誤嚥はほとんどが1カ月程度で症状が消失する一方で,混合性麻痺の場合には症状が持続する。原因としては,術後性,特発性,挿管性の3つが多く,中でも術後性としては,甲状腺癌や食道癌の術後という報告が多い。注意すべきは,声帯麻痺からみつかる原因疾患として,甲状腺癌や食道癌,悪性腫瘍の肺転移など,悪性疾患が多くを占めることである。したがって,声帯麻痺患者を取り扱う際には,まず原因検索を行うことが重要である。術後性麻痺症例での声帯運動の自然回復は,神経への手術侵襲の程度によるが,甲状腺術後の麻痺は比較的回復率が高いという報告がある。一方,特発性麻痺はその2~5割が,挿管性麻痺では6~8割が自然回復することが知られている。さらに,自然回復する症例の多くは半年以内に回復し,特に挿管性麻痺の場合には2~3カ月で回復するとの報告がある。
治療としては,主訴のほとんどが気息性嗄声であることから,音声改善が目的となる。ただし,片側性声帯麻痺に対する音声改善手術は,患側声帯を術前と比して内方に位置させ,緊張を持たせることを意図した,声門を狭める術式である。したがって,患者の背景因子として,今後健側も麻痺する可能性(後述)がある場合,安易に外科的治療を行うべきではない。
主訴は7割以上が呼吸困難で,そのほか嗄声や誤嚥を呈することがある。原因としては,術後性,特に甲状腺術後が多い。なお,甲状腺癌が関与している場合,片葉の切除あるいはがんの浸潤による片側性麻痺症例の経過中に,残存甲状腺に再発し,その切除や腫瘍の浸潤のために異時性に,結果として両側麻痺を発症しうる。同様の発症経緯は,食道癌でも起こりうる。片側性麻痺と異なり,両側性声帯麻痺の場合,諸症状の自然回復率は低く,時間を要する。挿管性であれば,片側性と同様に8割以上で少なくとも片側声帯の運動は3カ月以内に回復したとの報告もあるが,主訴のほとんどが呼吸困難であり,治療の第一歩としての気道確保には,時間的猶予がない疾患として対処するのが安全である。
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