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Withコロナと社会のデジタル化で高まるニーズ─電子カルテ最新事情2020

登録日: 2020-10-13

最終更新日: 2020-10-15

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新型コロナウイルス感染症の拡大で社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速している。菅義緯首相が就任会見で「オンライン診療の恒久化」を表明するなど、デジタル化の遅れが長年指摘されてきた医療業界にもその波は押し寄せており、医療機関は改めて院内ICTの活用を検討する必要に迫られている。院内ICTの核となる電子カルテの機能と有用性について解説する。

日本で電子カルテが認められたのは1999年。改めておさらいすると、電子カルテとは、従来医師が診療の経過を記入していた診療録(紙カルテ)を電子的な文書に置き換え、電子情報として一括してカルテを編集・管理し、データベースに記録するシステムまたはその記録を指す。当時、医療機関の間では、1970年代に登場したレセコンの普及が進み、その後PACSが開発されX線やCTなどの画像をネットワーク上でやり取りできるようになるなど院内ICTの活用が可能になったことから、旧厚生省が「診療録等の電子媒体による保存について」という通知を発出。「電子保存の三原則」をクリアすれば、カルテを電子データとして保存・管理することが正式に認められた。

カルテは、医師法第24条1項で医師に義務づけられている公的文書。医師は患者を診療したら遅滞なく診療に関する事項を記録し、最低5年間は保存しなければならないとされている。カルテは単なるメモにとどまらず、医療過誤においても重要な証拠として扱われるオフィシャルな文書で、たとえ必要な処置を行っていたとしても、カルテに記載がない場合、医療訴訟で主張が認められない可能性もある。そのため電子カルテでは、①真正性、②見読性、③保存性─の3つの要件を満たすことが必要になる。

 

押さえておきたい電子カルテの三原則

この三原則は、電子カルテメーカーにとっては当然の義務のため、ユーザーとなる医師やスタッフに説明されないケースが多い。しかし三原則への対応は医療機関の運用システムにも組み込む必要があるため、しっかりと理解しておくことが大切だ。

①の真正性とは、作成された記録が虚偽のものではないことが保証されていること。そのため電子カルテには記録が改竄されないような措置を講じることが求められている。勝手に入力・消去ができないようなシステムの構築や外部からの侵入を防ぐためのセキュリティ対策、データにアクセスする際のIDやパスワードを流出させないための対策なども重要になる。

②の見読性とは、カルテの情報は医師やスタッフだけでなく患者への説明時にも使用するため「いつ」「誰が」見ても情報が明確に分かるように書面として出力できる必要があるということ。出力物には紙カルテと同等の質を保つことが求められている。

③の保存性とは、カルテ情報が保存期間中は真正性を保ち、いつでも復元できる状態にしておくこと。記録媒体の不具合やウイルス、災害などによってデータが消失、破損することのないよう、バックアップデータを別の場所に保管するなどの対策が重要になる。

電子保存の三原則は、あくまでも厚労省のガイドラインに示された基準のため、違反してもそれ自体が罪に問われることはない。しかし患者の医療情報は極めて重要な個人情報。就業規則や情報管理規定の新設・見直しを行うなど、電子カルテメーカーのサポートを受けながら、しっかりとした運用体制を構築した上で導入することが大切になる。

電子カルテの選択肢が増加

医療機関種別ごとの電子カルテ普及状況の推移を示したのが。400床以上の病院では85.4%まで増加しているのに対し、200床以下の病院とクリニックでは4割前後にとどまっている。特にクリニックは2014年以降の伸びが鈍化しており、普及が進んでいない。新規開業のクリニックは多くが電子カルテを導入しており、紙カルテユーザーからの切り替えが進んでいないことが窺える。

 

“紙カルテ派”が電子カルテに移行しないのは、「紙カルテで十分」「電子カルテ導入に伴うデメリットが大きい」という理由が大きい。確かに電子カルテには、費用面や入力の手間など紙カルテにはない一定の負担が生じる。しかしここ数年、各電子カルテメーカーからこれまで普及の妨げになってきたデメリットを解消するような機能を搭載した様々なタイプの電子カルテが登場し、選択肢が増えている。

記載の自由度も向上

電子カルテと紙カルテの特徴を比較したのが。電子カルテ導入のメリットは、業務効率化とヒューマンエラーの削減といわれているが、紙カルテと比較しながら検証してみよう。

視認性については、電子カルテに軍配が上がる。整理されたフォーマットで記載されるため、誰が見てもすぐに情報を把握できる。紙カルテでは医師の手書きの文字をスタッフが解読するために時間がかかったり、読み間違いをしたりする恐れがあるが、電子カルテにその懸念はほぼない。出力して患者への説明にも使いやすいというメリットもある。

記載の自由度は、手書きの紙カルテがやや上回る。しかし電子カルテの中には、タッチペンで文字やイラストを書き込める機能を搭載し、紙カルテユーザーでも違和感なく移行できるモデルも増えてきている。

また電子カルテでは、検査結果や画像の取り込みができるため、カルテ情報をコンパクトに充実させることが可能。外注検査でも、検査会社によってはネットワーク上で検査結果をアップロードでき、必要な時に電子カルテの画面上で確認することができるケースもある。

入力の手間を削減する機能

電子カルテ普及の大きなハードルとなっている記載の手間については、急速に紙カルテとの差が縮まってきている。キーボード操作が苦手な医師でも入力がしやすいように、多くの電子カルテでマウスを数回クリックするだけでDoやセットなど定型入力ができる機能がある。中にはセットの内容をカスタマイズできるモデルもあり、入力にかかる労力や時間は大幅に削減可能となった。特に処方では、選択画面から処方したい医薬品を1クリックで入力でき、用法や用量を確認できる機能も備えていることが多いことから投薬ミスの防止にもつながる。

紹介状や診断書などの書類は電子カルテで作成する方が効率的だ。テンプレートを活用すれば、文書作成時間を短縮できる。

患者の満足度向上につながる

カルテの情報の取り扱いは、電子カルテの得意分野。患者情報をデータベースで管理しているため、検索が容易かつ短時間で済む。患者を受付で待たせることが減り、患者の満足度向上につながる。複数のスタッフが異なる場所で同時に閲覧することも可能。紙カルテのように移動の必要がないため、多くの場面で事務作業の効率化が図れる。

情報をデータで管理することは臨床上のメリットにもつながる。保存できるデータの容量が大きく、統計や分析がしやすいため、長い期間の経過を追うことができる。また過去の検査結果や薬歴をすぐに画面で確認できるため、患者への説明にも有用だ。紙カルテと異なり、患者が自分の情報を直接確認することで診療に対する理解度の向上が期待できる。

また、電子カルテは地域包括ケアシステムを構築していくためにも重要な役割を持つ。他の医療機関や薬局、施設などと誰が見ても分かりやすい形で情報を共有でできるため、シームレスな地域連携が可能になる。

自院に適したモデルの選択を

保管スペースの差は大きい。ネットワーク上にサーバーがあるクラウド型電子カルテでは院内にスペースを確保する必要はない。院内にサーバーを置くオンプレミス型の場合でも、カルテ庫やカルテ棚が必要な紙カルテに比べると圧倒的に小さいスペースで済む。

費用面の差は縮まりつつある。電子カルテには初期の導入費用と毎月の保守料が発生するが、中には月額1万円台から導入可能なモデルもあり、予算に応じた選択が可能だ。

電子カルテ元年から20年以上が経過し、各メーカーから進化した電子カルテが登場している。コロナ禍でさらなる業務効率化と感染防止への恒常的な対策が必要となる中、会計で待ち時間が発生しないなど患者にとっても電子カルテ導入によるメリットは大きい。クリニックのデジタル化はもはや不可逆的な流れ。電子カルテにクリニックのあり方を合わせるのではなく、自院に適したモデルを選ぶことができ、社会的ニーズも高まっている今、電子カルテの導入・切り替えを検討してみてはいかがだろうか。

[日本医事新報2020年10月10日号 特別付録「これが正解!Withコロナ時代の電子カルテ選び」より]

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