乱視は,角膜および水晶体の光学系の非対称性や不正が原因である。光学的性質から,正乱視と不正乱視に分類される。眼光学系全体の乱視(全乱視)は,角膜乱視と水晶体乱視から構成される。一般に入射光線が一点に結像しない光学系を持ち,近視や遠視と異なり眼光学系がどこにも焦点を結ばないため,どの位置のものも明確に見えていない。
正乱視では,2つの焦線と最小錯乱円からなるSturmのconoidと呼ばれる結像構造をとり,網膜位置との関係で見え方は様々である。焦線の網膜との位置で近視性乱視,混合性乱視,遠視性乱視に分類され,また,焦線の角度で直乱視,倒乱視,斜乱視に分類される。一般に若年者では直乱視が多く,中高年になるにつれ倒乱視化する傾向がある。さらに,乱視度数の強さの程度により弱度乱視と強度乱視に分類される。乱視のある人の頻度は25~30%程度で,2~3%は強度である。不正乱視は,光学面が乱れており結像は個々のケースで異なるが,全体的にどこにもピントが合わずぼやけた状態となる1)2)。
①乱視は角膜乱視か水晶体乱視か:乱視は,自覚屈折検査やレフラクトメーターで測定される全乱視だけでなく,ケラトメーターで角膜乱視を測定し,乱視の主たる原因がどこにあるかを確認することが大切である。ほぼ全乱視=角膜乱視+水晶体乱視である。
②乱視軸の修正は慎重に:乱視の矯正では乱視の強度だけでなく,軸が正しく矯正される必要がある。軸がずれていると乱視矯正効果が減じるが,5°の軸ずれにより約1/6の乱視矯正効果が失われる。15°の軸ずれでは半減,30°の軸ずれでは乱視度数が正しくても矯正効果は0となる。
③矯正方法:眼鏡,コンタクトレンズ(CL)が主である。白内障手術の際は,角膜乱視矯正のため,乱視付き眼内レンズ(IOL)を挿入することができる。また,保険診療外であるが,レーザー角膜手術や有水晶体IOLが選択される場合もある。
④不正乱視:原因治療が第一優先事項である。角膜面の平滑さを維持する目的で,ハードコンタクトレンズ(HCL)を処方する場合が多い。
まず,通常眼鏡による乱視矯正を考える。CL装用者は乱視付きレンズ処方を検討する。眼鏡,CLによる矯正を望まない場合,適応条件に合えば,保険診療ではないがレーシックなどの角膜矯正手術や有水晶体IOLなどの選択もある。
乱視矯正レンズは,乱視軸に沿って像を変形させるため,乱視の度数や軸の角度によっては,空間覚の変化から装用できないことがあり,矯正度数の調整が必要となる場合がある。まず,必要視力を考慮しながら度数を減じるが,斜軸で違和感がなくならない場合は,10°を限度に水平または垂直軸に近づける。
ソフトレンズ(SCL)とHCLによる場合がある。SCLは眼鏡と同じく全乱視を矯正するが,HCLは角膜乱視を矯正するため,角膜乱視と水晶体乱視が互いに症状を打ち消し合っていた場合,水晶体乱視が顕著になり,かえって見づらくなる場合があるので,要注意である。
白内障手術で通常のIOLを挿入すると,水晶体乱視が消去されるため角膜乱視のみが残存することになる。角膜乱視が大きい場合は乱視付きIOL挿入を行う。
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